利用報告書
課題番号 :S-17-JI-0042
利用形態 :技術代行
利用課題名(日本語) :近赤外光を利用する有機色素材料の開発
Program Title (English) :Development of novel near-IR absorbing dyes
利用者名(日本語) :古山渓行
Username (English) :T. Furuyama
所属名(日本語) :金沢大学理工研究域物質化学系
Affiliation (English) :Graduate School of Natural Science and Technology
1.概要(Summary )
近赤外光のうち、特に800~1000 nmの領域の光は自然界のほとんどの物質と相互作用しないため、透過性が非常に高いことが知られており、その性質を活用した医療材料・光電変換材料などへの応用が知られている。我々は過去に可視光色素として知られるフタロシアニンに対し、適切な場所に16族元素(硫黄・セレン・テルル)を導入することで近赤外光を強く吸収できるようになることを見出した。これらを材料として活用するにあたっては、適当な機能性置換基を系統的に導入可能な新しい合成法の開発が必要不可欠である。そこで本研究では、有機金属種を用いた新たな反応系をデザインし、近赤外吸収能を保持したまま、様々な官能基が導入できるか検討を行った。
2.実験(Experimental)
ハロゲン化アリールから有機金属種を発生させ、16族元素単体、フタロニトリル前駆体を順次反応させることで、官能基化されたフタロニトリル前駆体を得た。それらに対し、適切な環化反応を行うことで目的のフタロシアニン誘導体を合成した。構造決定は1H NMRおよびBruker Daltonics Inc. FT-ICR MS SolariXを用いた高分解能質量分析(イオン化法:MALDI)により行った。
3.結果と考察(Results and Discussion)
電子供与・求引基を持つハロゲン化アリールを原料としてフタロニトリル合成の検討を行い、置換基の電子状態に関わらず良好な収率で目的の前駆体が得られることを確認した。続いてフタロシアニンフリーベース体の合成を行うべく、リチウムアルコキシドを作用させるリチウム法を適用したが、電子求引基を持つ化合物においては収率の低下が得られた。そこで、マグネシウムイオンを用いた手法で一旦マグネシウム錯体を合成した後、脱金属することで目的の化合物を得た。
合成できたフタロシアニンはいずれも800 nm付近に強い光吸収帯を有し、近赤外材料として有望であることを示すことができた。一方、一部の化合物は有機溶媒への溶解性が低く、NMRでは望みの構造が合成できているか確定できなかった。そのような化合物を含め、MALDI法によるFT-ICR質量分析により、高分解能でのマススペクトルを得ることができ、構造決定を行うことができた(Fig. 1)。
4.その他・特記事項(Others)
質量分析の条件設定・解析において北陸先端科学技術大学院大学の大坂一生博士、宮里朗夫博士の支援を受けました。この場を借りて感謝申し上げます。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 岩本敬之、前多肇、千木昌人、古山渓行、日本化学会第98春季年会、平成30年3月22日.
6.関連特許(Patent)
なし。