利用報告書

遠赤外分光法によるアミロイド線維の構造解析
川崎 平康(東京理科大学総合研究院赤外自由電子レーザー研究センター)

課題番号 :S-20-MS-1077
利用形態 :機器センター施設利用
利用課題名(日本語) :遠赤外分光法によるアミロイド線維の構造解析
Program Title (English) :Structural analysis of amyloid fibrils by far-infrared spectroscopy
利用者名(日本語) :川崎 平康
Username (English) :T. Kawasaki
所属名(日本語) :東京理科大学総合研究院赤外自由電子レーザー研究センター
Affiliation (English) :IR-FEL Research Center, Tokyo University of Science

概要(Summary)
アルツハイマー病に代表されるアミロイドーシス疾患は、アミロイド線維と呼ばれるペプチド凝集体によって引き起こされるが、その凝集メカニズムには不明な点が多い。申請者は、テラヘルツ領域で発振する自由電子レーザー(FEL)を用いることによって、甲状腺ホルモン由来のアミロイド線維を分解することに成功した1,2。しかし、FELによるアミロイド線維の解離メカニズムは十分に解明されておらず、またその他の種類のアミロイド線維に対するレーザー照射効果についても不明である。本研究では分子サイズも生物学的機能も異なる複数種類のアミロイド線維の遠赤外吸収スペクトルを測定してアミロイド線維の構造を分析し、FEL照射によってアミロイド線維を分解するための適切な遠赤外波長領域を決定することを目的とした。

実験(Experimental)
FT遠赤外分光装置(Bruker社製IFS66v/S ・10-12000cm-1)を利用してKBr錠剤法にてアミロイド線維の粉末試料の遠赤外吸収スペクトルを測定した。アミロイド線維については、リゾチーム及びβ2ミクログロブリンの2種類を調製した。

3.結果と考察(Results and Discussion)
リゾチームとβ2ミクログロブリンいずれのアミロイド線維も、50-60 um付近に吸収ピークがあることが判明した。そこでFELの波長を55 umと75 um(吸収が弱い波長)に調整して照射実験を行ったところ、どちらの試料においても75 umに比較して55 umの方がβシート構造の解離効果が高いことがタンパク質二次構造解析の結果から示された。また、リゾチームに比較してβ2ミクログロブリンの方が、βシート構造の減少が顕著に起こっていた。リゾチームはアミノ酸が約120個のタンパク質であり、β2ミクログロブリンは約10個のペプチドである。従って、以上の結果は分子サイズが小さいほど線維構造の解離効果が高いことを示唆していると考えられる。

4.その他・特記事項(Others)
本研究を行うにあたり、機器センター技術職員の売市幹大様にご指導頂きました。本研究は科研費基盤(C)の資金援助を受け実施されました。
Ref. 1) T. Kawasaki, Y. Yamaguchi, T. Ueda, Y. Ishikawa, T. Yaji, T. Ohta, K. Tsukiyama, T. Idehara, M. Saiki, and M. Tani, Biomed. Opt. Express 11(9), 5341-5351 (2020).
2) T. Kawasaki, K. Tsukiyama, and A. Irizawa, Sci. Rep. 9, 10636 (2019).

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) T. Kawasaki, Y. Yamaguchi, H. Kitahara,
A. Irizawa, and M. Tani, The 8th International Workshop on Far-Infrared Technologies (IW-FIRT 2021) 8-9 March, 2021.

6.関連特許(Patent)
なし

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