利用報告書
課題番号 :S-15-JI-0010
利用形態 :技術代行
利用課題名(日本語) :酸化グラフェンの官能基の分布と特性評価
Program Title (English) :Evaluation of functional groups on graphene oxide
利用者名(日本語) :仁科勇太
Username (English) :Y. Nishina
所属名(日本語) :岡山大学異分野融合先端研究コア
Affiliation (English) :Research Core for Interdisciplinary Sciences
1.概要(Summary)
酸化グラフェンは,安価かつ大量に入手可能な黒鉛を化学的酸化処理することにより合成できる。黒鉛を酸化処理することで酸素官能基が導入され,黒鉛の層間の拡大および剥離が起こり,酸化グラフェンが得られる。酸化グラフェンは層の厚みを炭素1原子の単層にまで薄片化することができ,酸素官能基を利用する化学的相互作用を利用することで他の材料(高分子や金属ナノ粒子等)との複合化が容易である。取り扱い容易な溶液状態でのハンドリングが可能であるため,化学修飾を行いやすいという利点もあり,期待されているアプリケーションは極めて広い。また,還元することで導電性を有するグラフェン様材料に変換できることから,グラフェン前駆体としての用途が注目されている。
GOの酸素官能基の種類や量を制御することは,機能化グラフェンの複合体や誘導体を合成する上では必須の技術である。金属や有機分子,高分子等との複合化を行い,樹脂の改質,触媒への応用,蛍光特性の発現,有機溶媒への可溶化などを目指す場合は,酸素官能基を足掛かりに化学修飾を行うため,酸素含有量が多い方が良いと考えられる。特に,イオン性の相互作用を用いる際には,十分に酸化され,カルボキシ基が多いGOが望ましい。一方,GOの還元によりグラフェン類似物を得ることを目的とする場合は,還元によりグラフェン構造が回復しやすいヒドロキシ基やエポキシ基を多く含むGOを合成することが望ましい
2.実験(Experimental)
①黒鉛10 gと250 mLの硫酸を加え,冷却しながら撹拌した。
②過マンガン酸カリウムを徐々に加えた。
③35℃の湯浴中で2時間撹拌した。
④250 mLの水を加えた。
⑤過酸化水素を発泡しなくなるまで加えた。
⑦遠心分離を繰り返し,精製した。
加える過マンガン酸カリウムの量を変えることで,酸化度の異なる酸化グラフェンを得た。また,酸化グラフェンに対してヒドラジンを反応させることで,酸化度を制御することにも成功した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
黒鉛の酸化段階およびGOの還元段階の2通りの方法で酸化度制御を行い,その物性を評価した。まず,黒鉛の酸化段階における酸化度制御について,酸化剤である過マンガン酸カリウムの量を変化させることで酸化度を制御した。この方法で作成したGOをoGOと呼ぶ。過マンガン酸カリウムの量を10段階で変化させることにより,oGOの酸素含有量を約5%刻みで制御することに成功した。加える過マンガン酸カリウムと酸素含有量の関係をグラフに示す(Figure 1)。XPSにより各酸素含有量のoGOを評価したところ,低酸素含有量のGOではヒドロキシ基やエポキシ基(286 eV付近)に対応するピークが確認され,カルボキシ基(288 eV付近)に対応するピークは確認されない(Figure 2a)。このことから低酸素含有量のoGOではカルボキシ基はほとんど存在せず,ヒドロキシ基とエポキシ基が主である。XRD分析では,酸素含有量が50w%程度のものでも黒鉛に対応するピークが確認され,黒鉛の結晶構造が残存していることが分かった。また,酸素含有量が約25 w%以上で出現するGOのピークは,酸素含有量が増加するに従って低角度側にシフトし,層間距離が増加していくことが確認された(Fig. 2b)。
Figure 1. Relationship between oxygen content of oGO and KMnO4/graphite ratio used in the oxidation process.
Figure 2. (a) XPS and (b) XRD spectra of different oxidation degree oGO prepared by oxidation of graphite.
次に,GOの還元による酸素含有量の制御について説明する。ここではヒドラジンの量を変えることにより酸素含有量制御を行った(Figure 3)。こうして得られたGOをrGOと呼び,この方法でも酸素含有量を約5 w%刻みで制御することに成功している。還元が進むと疎水性が回復し,-相互作用によるrGOの凝集が起こる。この条件ではヒドラジンの量をいくら増やしても,酸素含有量は10 w%以下に還元されなかった。得られた各rGOについて,XPSおよびXRD分析を行った。元素分析で求めた酸素含有量の値に比べて,XPSでC-O結合に起因するピーク面積が小さい(Figure 4a)。XPSは表面分析であるため,凝集した内部と表面とでは,組成が異なる可能性がある。XRDパターンで2=10º付近に現れるGOに対応するピークは,還元が進行するにつれて高角側にシフトすることが確認された(Figure 4b)。これはrGOの酸素官能基が除去されるにつれて層間距離が減少したことを表している。ただし,酸素含有量が30 w%付近になるとGOに由来するピークは消失し,2= 20º付近にブロードなピークが観測されるようになる。これ以上還元を進行させてもピークは変化することはなく,また黒鉛に由来するピークが出現することはない。
Figure 3. Relationship between oxygen content of rGO and amount of hydrazine used in the reduction process.
Figure 4. (a) XPS and (b) XRD spectra of different oxidation degree rGO prepared by reduction of highly oxidized GO.
4.その他・特記事項(Others)
本研究は,独立行政法人科学技術振興機構(JST)さきがけ「分子技術と新機能創出」(研究総括:加藤 隆史 東京大学教授)、科学研究費補助金(若手研究B)等の助成を受け実施しました。XPS測定には北陸先端科学技術大学院大学の村上達也氏,木村一郎氏の技術支援により行いました。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) N. Morimoto, T. Kubo, Y. Nishina*, Tailoring the Oxygen Content of Graphite and Reduced Graphene Oxide for Specific Applications, Scientific Reports, 2016, 6, Article number: 21715.
(2) A. Saito, H. Kinoshita, K. Shimizu, Y. Nishina*, Bull. Chem. Soc. Jpn., 2016, 89, 67-73.







