利用報告書

金属ポルフィリノイド錯体を含む人工金属酵素の電子状態解析
大洞光司, 宮﨑雄大
大阪大学大学院工学研究科

課題番号 :S-15-MS-1040
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :金属ポルフィリノイド錯体を含む人工金属酵素の電子状態解析
Program Title (English) :Evaluation of electronic states of artificial metalloenzymes containing porphyrinoid metal complexes
利用者名(日本語) :大洞光司, 宮﨑雄大
Username (English) :K. Oohora. Y. Miyazaki
所属名(日本語) :大阪大学大学院工学研究科
Affiliation (English) :Graduate School of Engineering Osaka University

1.概要(Summary )
本研究では、鉄ポルフィリン錯体(ヘム)を非天然の金属錯体へと置換したヘムタンパク質を調製し、人工金属酵素としての評価を金属中心の電子状態に注目して行なった。 特にCoを含む人工金属酵素において配位環境を明らかにする重要な知見が得られた。

2.実験(Experimental)
酸性条件下で天然の補因子であるヘムを除去したヘムタンパク質に人工金属錯体としてコバルトあるいはニッケルコリノイド錯体を挿入した再構成ヘムタンパク質を調製した1,2。 このサンプルについて、電子スピン共鳴装置 Bruker E500を用いて電子状態の評価を行なった。 サンプルチューブには4 mm径の石英管を用い、タンパク質の濃度は約0.5-1 mM、pH 7.0のリン酸緩衝液あるいはMOPS緩衝液中に溶解したサンプルを急速凍結し、オックスフォード社製のクライオスタットを使用し、5 – 20 Kの温度範囲でX-band EPRの測定を実施した。 主に使用した条件はmicrowave power 2 mW、modulation amplitude 10 G、温度5 Kであった。 またスペクトルの測定範囲は500-4000 gaussであった。

3.結果と考察(Results and Discussion)
コバルトコリノイドを挿入したタンパク質では測定の結果、g = 2.0付近に幅広いピークが観測された。高分解能で得られたデータを確認すると、8本に分裂した微細構造、さらにそれらがそれぞれ3本に分かれた超微細構造が観察された。これはCoの核スピンが7/2であることと一致している。 また軸配位子としてヒスチジンの配位が予想され、実施に超微細構造はそのN原子の配位によるものと帰属できる。したがって、測定した再構成ヘムタンパク質はd7の2価種であることが明らかになった。またこの化学種を酸化して3価にすると、シグナルは消失し、d6の反磁性化合物に変化したことが確認された。またNiを有する再構成ヘムタンパク質では、全くシグナルが観察できなかった。他の実験から2価種が還元された1価種であると考えていたため予想外の結果であった。理由は2点考えられる。一つは濃度不足であった。もう一つは何かしらのラジカル種、あるいは錯体同士の相互作用によりシグナルが弱まった可能性がある。今後、双方の系について他の測定手法と組み合わせて、人工金属酵素の価数や電子状態を考察することで、非天然金属錯体の触媒能における作用機序を明らかにすることができると予想される。

4.その他・特記事項(Others)
謝辞: 本研究の遂行に関しまして、多大なご助言、実験環境を与えて下さった大阪大学大学院工学研究科林 高史教授に感謝申し上げます。
参考文献: (1) Hayashi, T.; Morita, Y.; Mizohata, E.; Oohora, K.; Ohbayashi, J.; Inoue, T.; Hisaeda, Y.Che. Commun. 2014, 50, 12560. (2) Oohora, K.; Kihira, Y.; Mizohata, E.; Inoue, T.; Hayashi, T. J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 17282.
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 宮﨑雄大、森田能次、大洞光司、林 高史、錯体化学会第65回討論会、2E-05、平成27年9月22日
(2) 宮﨑雄大、森田能次、大洞光司、林 高史、日本化学会第96春季年会、1E2-09、平成28年3月24日
6.関連特許(Patent)
なし。

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