利用報告書

金属酵素反応中間体の電子構造と磁気的性質の研究
藤井浩、柳井佳苗、竹田彩乃、加藤木優里、鈴木優菜、大島奈央、岩本星夏(奈良女子大学)

課題番号 :S-20-MS-1016
利用形態 :施設利用
利用課題名(日本語) :金属酵素反応中間体の電子構造と磁気的性質の研究
Program Title (English) :Study on the electronic structure and magnetic property of active model complexes of metalloenzymes
利用者名(日本語) :藤井 浩、柳井佳苗、竹田彩乃、加藤木優里、鈴木優菜、大島奈央、岩本星夏
Username (English) :Hiroshi Fujii, Kanae Yanai, Ayano Takeda, Yuri Katogi, Yuna Suzuki, Nao Oshima, Seina Iwamoto
所属名(日本語) :奈良女子大学
Affiliation (English) :Nara Women’s University

1.概要(Summary )
生体内の金属酵素は優れた反応性を示す。これは酵素がそれぞれの機能に応じてさまざまな反応中間体をとるためと考えられている。反応中間体は、反応中に様々なスピン状態をとりながら機能している。これらの電子構造や磁性を分子レベルで解明することは、酵素の機能がいかにして発現しているかを解明するためには欠かすことができない。これまで本申請者は、酵素反応中間体のモデル錯体を合成し、その電子構造、磁性、反応性を研究し酵素反応との関わりを解明してきた。これらの研究を推進する上で、磁気共鳴法(EPR,NMR)や磁化率測定は電子構造に関してたいへん有用な情報を与える。本課題では、分子科学研究所のEPR装置を用いて、酵素反応中間体モデル錯体の電子構造を精密に解明することを行った.

2.実験(Experimental)
分子科学研究所機器センターにおいて金属酵素およびそれらのモデル錯体のEPRとNMR測定を行った。EPRは、主にBruker EMS Plusを用いて測定した。EPRサンプルは、測定直前に分子科学研究所において調製した。液体ヘリウムを用いて、4KにおけるEPRスペクトルを測定した。NMRは、JEOL-600を用いて測定を行った。水素核と重水素核の測定を行った。

3.結果と考察(Results and Discussion)
シトクロムP450活性部位モデル錯体の研究
シトクロムP450の活性部位は、ヘムにシステイン残基のチオレートが配位している。本研究では、シトクロムP450におけるチオレート軸配位子の機能を解明するため、チオレート配位子をもつモデル錯体の合成を行った。合成した錯体を4KでEPRを測定すると、鉄3価高スピン状態と低スピン状態が混合することが明らかとなった。この錯体にTHFを添加した後EPRを測定すると低スピン錯体になったことがわかった。これらの結果は、酵素の磁気的性質を非常に良く再現していて、この研究で合成したモデル錯体が非常に優れていることを示した。この錯体を酸化すると酸化生成物の生成を吸収スペクトルで確認することができた。この酸化生成物の電子状態をH NMRとEPRを用いて、さらに検討した。その結果、この酸化生成物は鉄3価錯体が一電子酸化を受けた錯体であることが解明された。チオレート配位ヘム錯体で初めて酸化に成功した。
高原子価ヘム錯体の溶媒効果
高原子価ヘム錯体の溶媒効果をH NMRとEPRを用いて検討した。ヘキサン中での電子構造を調べたが、従来より用いられている塩化メチレンと大きな違いが見られなかった。

4.その他・特記事項(Others)
なし

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) N. Fukui, K. Ueno, M. Hada, and H. Fujii, Inorg. Chem. Vol. 60, (2021) 3207-3217.
(2)鈴木優菜、本田裕樹、藤井 浩, 第53回酸化反応討論会, 令和2年11月7日.

6.関連特許(Patent)
なし

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