利用報告書
課題番号 :S-16-NI-36
利用形態 :共同研究
利用課題名(日本語) :金属錯体の組成決定
Program Title (English) :Composition determination of metal complexes
利用者名(日本語) :米村俊昭
Username (English) :Toshiaki Yonemura
所属名(日本語) :高知大学
Affiliation (English) :Kochi University
1.概要(Summary )
我々はこれまでに,三脚型四座配位子tren(tris(2- aminoethyl)amine)と複素環式化合物であるピリミジンチオレート誘導体を配位子として有するモノチオラトコバルト(Ⅲ)錯体が,硝酸銀との2:1での反応により三核錯体,1:1での反応により直鎖状錯体を形成することについて報告している。本研究では,2-チオウラシル(Htura)を含むモノチオラトコバルト錯体をパラジウムイオンと反応することにより生成する錯体について検討を行った。得られた化合物は各種スペクトルデータに基づいて同定を行った。
2.実験(Experimental)
[Co(tura)(tren)]+または[Co(Htura)(tren)]2+とK2[PdCl4]を4:1または2:1で混合し,室温で2時間撹拌することによりパラジウム-コバルト錯体を得た。
組成の決定ならびに構造の帰属には,ESIマススペクトル,ICP発光分析,可視-紫外・赤外吸収,拡散反射,核磁気共鳴スペクトルを用いた。
3.結果と考察(Results and Discussion)
[Co(tura)(tren)]+とK2[PdCl4]の4:1反応により得た生成物では,ESIマススペクトルのm/z = 331.3 ([Co(tura)(tren)]+)のピークおよびIR吸収スペクトルから,単核錯体の骨格を保持したまま多核化反応が進んでいることが確認できた(図1)。拡散反射スペクトルにおいて,d-d遷移が単核錯体と比較して10 nm長波長シフトしており,13C NMRスペクトルにおいて,硫黄原子に隣接する炭素原子に由来するピークが単核錯体に比べて9 ppm高磁場シフトした。ICP発光分光分析の結果がCo:Pd = 4:1であったことを考慮し,[Pd{Co(tura)(tren)}4]6+が生成したと考えた(図2)。
一方,[Co(Htura)(tren)]2+とK2[PdCl4]の2:1反応により得た生成物では,IR吸収スペクトルにおいて,単核錯体で見られたラクタム類C=O伸縮振動に由来するピークが消失したことから,Htura配位子のプロトンが脱離して多核化反応が進んだと考えられた。13C NMRスペクトルにおいて,硫黄原子に隣接する炭素原子に由来するピークが単核錯体に比べて6 ppm高磁場シフトした。ICP発光分光分析の結果がCo:Pd = 2:1であったこと,またこの錯体の水溶液に硝酸銀を加えると白色沈殿(AgCl)が生じたことを考慮して,[PdCl2{Co(tura)- (tren)}2]2+が生成したと考えた(図3)。
この場合にも,単核錯体の骨格は保持されていることが,ESIマススペクトルのm/z = 331.3 ([Co(tura)(tren)]+)のピークにより確認できた。[Co(tura)(tren)]+および[Co- (Htura)(tren)]2+の硫黄架橋銀錯体では,同一の四核錯体([Ag2{Co(tura)(tren)}2]4+)が生成するのに対し,硫黄架橋パラジウム錯体では異なる生成物が得られることがわかった。硫黄架橋パラジウム錯体の形成におけるpHの影響を,[Co(Htura)(tren)]2+での反応をpH 7に調整して検討したところ,生成物のスペクトルデータが[Pd-{Co(tura)(tren)}4]6+と良い一致を示した。[Co(Htura)-(tren)]2+の水溶液はpH 3.8を示すことから,酸性条件下での[PdCl4]2-の解離能の低下により異なる生成物が得られたと考えた。
4.その他・特記事項(Others)
名古屋工業大学小澤智宏先生に,ESIマススペクトルを測定していただきました。御礼申し上げます。
5.学会発表(Presentation)
(関連研究)米村俊昭,伊藤勇輝,小澤智宏, 銀-コバルト混合錯体の形成に及ぼす芳香族チオラト配位子の影響(6), 第66回錯体化学会討論会, 福岡 (2016/9/11).
6.関連特許(Patent)
なし







