利用報告書

鉄系合金箔の表面層分析
吉田俊幸
島根大学

課題番号 :S-20-JI-0025
利用形態 :技術代行支援
利用課題名(日本語) :鉄系合金箔の表面層分析
Program Title (English) :Surface layer analysis on iron alloy foil
利用者名(日本語) :吉田俊幸
Username (English) :T. Yoshida
所属名(日本語) :島根大学
Affiliation (English) :Shimane University

1. 概要(Summary )
磁性材料である鉄系合金箔を応用したアキシャルギャップ型モーターが注目されている。箔を積層化してバルクとして使われることも多く、表面が磁性特性に及ぼす影響について評価・解析することは今後重要となる。さらに種々の加工プロセスによる表面特性の変化にも注目する必要がある。
昨年度の取り組みにより、鉄系合金箔表面には酸化物層があることが分かっている。今回は、湿度の異なる環境での長期間の保管、およびレーザー加工プロセスによる影響について、X線光電子分光法(XPS法)により評価を試みた。

2.実験(Experimental)
試料である鉄系合金箔を、as-receivedを基準として、低湿度環境(dew:-50℃)および高湿度環境(RH>90%)で1~6週間保管し、表面層の変化を評価した。また、レーザー照射を行い、照射痕とその周辺の表面層を評価して変化を調べた。レーザー波長は405 nm、パワーは477 mW、レーザー径は約0.2 mm、掃引速度は1mm/s、掃引回数は10回とした。
評価は,国立大学法人 北陸先端科学技術大学院大学に設置されている,XPS AXIS-ULTRA DLDを用いて行った。また表面層や内部の解析のため、Arスパッタによる深さ方向解析も行った。X線源はモノクロAl-K,15 kV,10 mA、Arスパッタはラスターサイズ2 mm x mm,4.86 kV,10 mAである。

3.結果と考察(Results and Discussion)
昨年度の取り組みよりAs-receivedの試料表面には主成分である鉄(Fe)、添加剤のシリコン(Si)とホウ素(B)の酸化層が6~9 nmあることが分かっている。さらに酸化層の表面には油脂と思われる多量の炭素(C)も検出されている。今回は内部と表面層の元素比を求めたところ、Fe:Si:Bは内部で0.62:0.04:0.34、表面酸化層では0.53:0.33:0.14と求まった。これを、湿度の異なる環境で6週間保管したところ、低湿度環境(dew:-50℃)では0.53:0.38:0.09、高湿度環境(RH>90%)では0.49:0.40:0.12となり、若干の違いが見られた。同じ方法で内部の組成比を見るとほぼ等しい結果が得られたことから、今回の結果は小さいながらも有意な差を検出したと考えられ、より長期間または温度変化も含む環境差を与えた実験が必要であることが分かった。
レーザー照射実験では、まず、C1s軌道を用いたマッピング測定により、幅0.1 mmの明瞭な照射痕が検出された。レーザー痕直上と約1 mm離れた点での評価結果から、レーザー照射によって再表面に存在する炭素成分の一部は脱離し、一部は内部に拡散され炭化物を形成する可能性が見いだされた。詳細は解析中であるが、レーザーカッターによる加工プロセスにおいて、カット面周辺の特性が変化する可能性が示されたことより、磁性体としての特性への影響も含め評価する必要がある。

4.その他・特記事項(Others)
今回の技術代行は村上達也氏の協力のもとに行われたことに謝意を表したい。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし。

6.関連特許(Patent)
なし。

©2024 Molecule and Material Synthesis Platform All rights reserved.