利用報告書

防錆ナノコーティングの開発
内藤昌信1)
1)物質・材料研究機構

課題番号 :S-14-NR-0024
利用形態 :共同研究
利用課題名(日本語) :防錆ナノコーティングの開発
Program Title (English) :Development of Anticorrosion Nanocoating
利用者名(日本語) :内藤昌信1)
Username (English) : M. Naito1)
所属名(日本語) :1)物質・材料研究機構
Affiliation (English) :1) National Institute for Materials Science

1.概要(Summary )
接着剤の用途は多岐にわたり、我々の日常生活に欠かせないものとなっている。一方で、高い信頼性、簡便な施工性、過酷条件下での安定性など、さらなる機能の向上が求められている。中でも、次世代接着剤が目指すターゲットの一つとして、水中などの湿潤環境下でも使える接着剤が挙げられる。水中で硬化し、かつ、高い接着性を長期間に渡り維持できる接着剤を作ることは、最先端の接着材料をしても非常に困難な課題である。これをいとも簡単に実現しているのが、フジツボやイガイなどの付着生物と呼ばれる水棲生物である。付着生物の代表格であるイガイは、岩礁や水中建造物、船底などに付着するときに、「接着タンパク質」と呼ばれる接着物質を分泌する。その際、岩礁やガラスなどの無機物質、木材や塗料、プラスチックなどの有機・高分子材料、金属のみならず、テフロンやポリプロピレンなど、既存の接着剤との接着性に乏しい高分子材料や、バクテリアが作るバイオフィルムなど、被着体を選ばないというのも大きな特徴である。
一般的に水は接着剤の性能を著しく損ねてしまうが、イガイ類が作る接着物質は、水溶性の前駆体タンパク質が被着体付近に分泌された後、酸化酵素の作用で不溶化が急速に進行し、数分以内に岩礁や船底などに強固に固着する。いったん接着すると、流速10m/s以上の水流にさらされても剥がれることはない。これは風速268m/sの風に抗うのに匹敵する。
本研究では、Dopaやドーパミンの持つ温和な条件で金属表面に強固に付着する性質を利用して、新たな防食コーティングの開発を行った。金属の表面処理にはクロムメッキという方法が有力であったが、有害なクロムを用いることが懸念され、代替コーティング剤が望まれている。我々は、Dopaを側鎖に持つアクリル樹脂が、金属表面との接着と耐蝕性に優れることを見出した。
2.実験(Experimental)
金属表面と接着性高分子の接着性を評価するため、XPS測定を行った。また、合成高分子の構造評価を行うため、MALDI-TF-MS測定を行った。
3.結果と考察(Results and Discussion)
今回開発した防錆高分子をMg基板上にコーティングし、クロスカット試験を行った(図1)。汎用性樹脂でコートした基板は数時間以内に剥がれ・腐食等が起こったのに対し、NIMS開発品は高い耐腐食性を示すだけでなく、クロスカット部分からの腐食の侵食も起こらなかった。さらに、本コーティング剤は、Mg以外にもFe、Al、Cuを始めとする構造材料にも高い防錆効果を示すことを見出した。現在、量産化に向けたスケールアップ試験を行っている。

図1 付着生物模倣型ナノコーティングの試験結果

4.その他・特記事項(Others)
本研究を遂行するにあたり、奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科技術職員 岡島康雄様にはXPS測定ならびに西川嘉子様にはMALDI-TOF-MS測定で大変ご尽力いただいた。ここに深く感謝の意を顕します。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) D. Payra, M. Naito, Y. Fujii, N. L. Yamada, S. Hiromoto and A. Singh, RSC Adv., 雑誌名,Vol. 5(2015)p.p. 15977 -15984.
6.関連特許(Patent)
なし

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