利用報告書
課題番号 :S-15-JI-0011
利用形態 :技術代行
利用課題名(日本語) :電子デバイス応用に向けた還元した酸化グラフェン薄膜のX線光電子分光法による構造解析
Program Title (English) :Structural analysis of reduced graphene oxide films using X-ray photoelectron spectroscopy toward electrical device applications
利用者名(日本語) :根岸良太、松井祐二、小林慶裕
Username (English) :Ryota Negishi, Yuji Matsui, Yoshihiro Kobayashi
所属名(日本語) :大阪大学大学院工学研究科
Affiliation (English) :Graduated school of enginerring、Osaka University
1.概要(Summary )
還元した酸化グラフェン(rGO)薄膜をチャネルとした電界効果型トランジスタ(FET)構造は、高感度バイオセンサーへの応用が期待されている。センサーの高感度化には、薄膜材料の伝導特性の向上に加えて、ターゲットとなる分子の吸着量を効率よく増大させる必要がある。吸着分子を増大させるためには、rGO表面に分子認識部位を固定化させるためのアンカー分子の吸着密度制御が重要となる。そこで本研究では、吸着密度の支配要因と考えられるrGOの表面状態、特に酸化グラフェンの合成過程で生成した欠陥が吸着密度に及ぼす効果を紫外可視分光(UV)法を用いた定量的な解析により検証したので報告する。
2.実験(Experimental)
水晶基板上にシランカップリング剤を用いて自己組織化単分子膜(SAM膜)を形成した後、単層GO水溶液(Graphene Laboratories Inc.)に浸し、均一な膜厚のGO薄膜を形成した。欠陥密度が大きく異なるGO薄膜は、構造修復効果のあるエタノール気相雰囲気中の処理、及び酸素除去のみが進行する不活性ガス雰囲気中の処理により作製した。これらの表面状態を、XPS(島津クレートス社製 AXIS-ULTRA DLD)を用いて分析した。ピレンを吸着させる前後のUVスペクトルの比較からGO表面に吸着したピレンを定量した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
図1に、各還元条件で合成したrGO薄膜からのXPSスペクトルを示す。処理温度が高いほど、酸素含有基が効率的に除去できていることが分かる。図2に様々な条件で処理したrGO薄膜に対するピレンの吸光度とピレン表面被覆率(吸着密度)との関係を示す。気相雰囲気がArかエタノールかによらず、より高温で熱処理を行った場合に吸着量が増加する傾向がわかる。気相雰囲気がエタノールの場合にArと比べてグラフェン構造(π電子系)の回復が著しく進行することを踏まえると[1]、この結果はピレンの飽和吸着量がπ電子系回復よりも熱処理の温度に支配されていることを示す。さらに我々は、ピレン吸脱着のカイネティクスについて調べるため、GO表面上で平衡状態にあるピレン溶液濃度とピレン吸着量との相関を解析した。その結果、濃度依存性はラングミュア吸着等温式により説明できることを明らかにした。この手法を様々な表面状態のGOに対して適用することにより、ピレン吸脱着速度定数の密度依存性や吸着種間の相互作用などの詳細が明らかにされ、バイオセンサーの定量化や安定動作に結び付くと考えられる。
4.その他・特記事項(Others)
参考文献
1.R. Negishi and Y. Kobayashi, “Extraordinary suppression of carrier scattering in large area graphene oxide films” Appl. Phys. Lett. Vol. 105 253502 (2014).
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 松井 祐司、根岸 良太、小林 慶裕“センサー高感度化に向けたピレン吸着密度定量解析”応用物理学会関西支部平成27年度第2回講演会(阪大中之島センター、2015年9月30日)
6.関連特許(Patent)
なし







