利用報告書

青果物細胞の微細構造解析
阿久根 清羅
九州大学農学部/農産食料流通工学研究室

課題番号 :S-17-KU-0035
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :青果物細胞の微細構造解析
Program Title (English) :Studies on the Fine Structure of Vegetable Cells
利用者名(日本語) :阿久根 清羅
Username (English) :Sera Akune
所属名(日本語) :九州大学農学部/農産食料流通工学研究室
Affiliation (English) :Laboratory of Postharvest Science、Kyushu University、

1。概要(Summary )
収穫された果実は時間経過とともに軟化するものにあり、これを抑制することはフードロスならびに経済的ロスを抑える上で極めて重要な課題である。果実の軟化に密接に関連する物質の一つとしてペクチンがあり、これは細胞壁の主要構成多糖類の一種として知られている。未熟な果実に含まれるペクチンは水に不溶であるが、成熟が進むとリガラクチュロナーゼの働きにより水溶性ペクチンに変化する。このような果実の老化に関与する酵素は、成熟した果実から発生するエチレンによってその働きが活性化されることが知られている。
本研究では、エチレン作用を阻害する農薬として近年注目されている1-メチルシクロプロペン (以下、1-MCP)処理が果実内のペクチンのナノ構造と組成変化に与える影響について調査し、その効果について検討した。「Control(無処理)」、「1-MCP処理」、「1-MCPおよびエチレン処理」という3つの試験区を設け、貯蔵期間ごとに原子間力顕微鏡 (以下、AFM) 解析および化学分析によるペクチン含量の定量を行い、試験区間のペクチン構造と組成の違いを比較した。

2。実験(Experimental)
供試材料としてJA筑前あさくらから仕入れたナシ (豊水) を用い、Control、1-MCP処理、1-MCP+エチレン処理の3つの試験区について、貯蔵実験を実施した。エチレン処理が終了した時点を3試験区すべての貯蔵開始日とし、 実験では、各サンプルを25℃に設定したインキュベータ内に貯蔵し、0、3、7、10、14、23 日目にAFMを用いたナノ構造観察と組成分析を行った。
本実験では、ペクチン抽出作業に先んじてアルコール不溶性固形物 (以下、AIS) の調整を行い、その後、水溶性ペクチン (water soluble pectin:以下、 WSP) 、キレート可溶性ペクチン (chelator soluble pectin:以下、 CSP) 、炭酸ナトリウム可溶性ペクチン (sodium carbonate- soluble pectin:以下、 SSP) を分別抽出し、各種ペクチンの構造解析と含量測定を行った。

3。結果と考察(Results and Discussion)
AFM解析により、WSPの構造はエチレンの有無に関わらず貯蔵日数の増加とともに高さが増大する傾向にあることが分かり、CSPの構造変化においては、貯蔵期間後半において1-MCP処理を施した試験区で、CSP分子がXY方向に比較的広がりやすい傾向にあることが示された。また、SSPは貯蔵期間が長くなるにしたがって網目構造が崩壊し、凝集しやすい傾向にあることが示された。この傾向は、特にControlにおいて顕著であったことを踏まえると、 1-MCP処理によるエチレン阻害は、貯蔵日数の経過とともにSSPが断片化する現象を抑制する効果を持ち、果実の軟化抑制に大きく貢献していると結論付けた。

4。その他・特記事項(Others)
 本研究のデータに直接的に関わったAFMは本研究室で独自に購入したものでしたが、購入が平成29年11月ということもあり、本研究室にAFMが設置されるまでの間のAFM測定実戦練習という位置づけで今回は使用させていただきました。

5。論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし。

6。関連特許(Patent)
なし。

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