利用報告書
課題番号 :S-17-MS-1033
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :非共有結合性相互作用を用いた金属錯体の配位構造制御と磁気的性質
Program Title (English) :Geometric Control and Magnetic Properties of Transition-metal Complexes with Noncovalent Interactions
利用者名(日本語) :三橋了爾1)
Username (English) :Mitsuhashi, Ryoji
所属名(日本語) :1) 関西学院大学理工学部
Affiliation (English) :School of Science and Technology, Kwansei Gakuin University
1.概要(Summary)
2-(2-イミダゾリニル)フェノレート(Himn)を用いたトリスキレート型錯体[Co(Himn)3]を三座の錯体配位子として用いることで、結晶学的3回軸を有するCo(II)錯体[Co3(Himn)6]X2 (X=対アニオン)を合成することに成功した。直流磁化率の測定から、本化合物は大きな磁気異方性を有することがわかった。また、直流磁場存在下で単イオン磁石(SIM)として振る舞うことが明らかになった。
2.実験(Experimental)
SQUID型磁化測定装置MPMS-7(Quantum Design)を用いて[Co3(Himn)6]X2について磁化率の温度依存性(1.9-300 K)と磁化の磁場依存性(0-50000 Oe)を測定した。また、MPMS-XL7(Quantum Design)を用いて外部直流磁場(0-5000 Oe)存在下での交流磁化率(1-1500 Hz)を測定した。さらに、Bruker E500を用いて単結晶の電子スピン共鳴スペクトルを4 Kで測定した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
直流磁化率測定の結果、300 KでのχMT値(ca. 3.3 cm3mol–1K)がS = 2/3のスピンオンリーの式から予想される値(1.88 cm3mol–1K)よりもかなり大きな値を示した。このことから、本化合物では大きな軌道角運動量の寄与があると考えられる。また、一軸異方性モデルでのフィッティングの結果、非常に大きな一軸性磁気異方性を示すことが明らかになった(一軸性ゼロ磁場分裂パラメータ:D ≤ –110 cm–1)。また、対アニオンのサイズおよび電気陰性度は本化合物の静的な磁性にほとんど影響しないことがわかった。ゼロ磁場分裂パラメータDはSIMのスピン反転障壁Ueffと比例関係にあるため、本錯体は有力なSIMの候補となる。そこで、交流磁化率の測定により、その動的な磁気的性質を調査した。しかし、直流外部磁場なしでは磁化率の周波数依存性は観られなかった。これは、量子トンネリングによってスピン緩和が進行したためであると考えられる。一方で、量子トンネリングを防ぐために直流外部磁場存在下で測定した場合、遅い磁気緩和を示す虚数磁化率の周波数依存性が観測された。このことから、本錯体は磁場誘起型SIMであることがわかった。
4.その他・特記事項(Others)
本研究を行うにあたって技術支援を賜りました分子化学研究所機器センターの方々に御礼申し上げます。また、実際の細かい測定方法等の助言を賜りましたコペンハーゲン大学Jesper Bendix教授およびデンマーク工科大学Kasper Pedersen助教に深く感謝します。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) R. Mitsuhashi, T. Suzuki, and M. Mikuriya, Chem. Lett., 2018, 47, 479–482.
(2) R. Mitsuhashi, T. Ueda, T. Suzuki, and M. Mikuriya, 錯体化学会第67回討論会, 平成29年9月18日
(3) R. Mitsuhashi, The 2nd International RINS Symposium–Exploring New Frontiers in Coordination Chemistry–, Okayama University of Science, December 1, 2017.(招待講演)
(4) R. Mitsuhashi, T. Ueda, T. Suzuki, and M. Mikuriya, 日本化学会第98春季年会, 平成30年3月22日
6.関連特許(Patent)
なし