利用報告書

非対称二座配位子を用いた遷移金属錯体における水素結合相互作用と磁気的性質
三橋了爾1), 細谷聡1)
1) 関西学院大学理工学部

課題番号 :S-16-MS-1095
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :非対称二座配位子を用いた遷移金属錯体における水素結合相互作用と磁気的性質
Program Title (English) :
利用者名(日本語) :三橋了爾1), 細谷聡
Username (English) :
所属名(日本語) :1) 関西学院大学理工学部
Affiliation (English) :

1.概要(Summary)
2-(1,4,5,6-テトラヒドロピリミジル)フェノール(H2thp)を単座配位子として用いることで、非配位のテトラヒドロピリミジル基を水素結合ドナーとして機能させ、分子間水素結合によって1次元鎖状の水素結合ネットワークを形成する4配位四面体型Co(II)錯体, [CoX2(H2thp)2] (X=Cl– or Br–), を合成した。四面体型Co(II)錯体は大きな磁気異方性を有するため、磁気中心1つで単分子磁石挙動を示す単イオン磁石(SIM)として期待される。本研究では、用いるハロゲン化物イオンのイオン半径による結晶中での水素結合ネットワークの違いと錯体の磁気的性質の違いについて調査した。
2.実験(Experimental)
SQUID型磁化測定装置MPMS-7(Quantum Design)を用いて[CoCl2(H2thp)2]および[CoBr2(H2thp)2]について磁化率の温度依存性(1.9-300 K)と磁化の磁場依存性(0-50000 Oe)を測定した。また、[CoCl2(H2thp)2]についてはMPMS-XL7(Quantum Design)を用いて外部直流磁場(0-5000 Oe)存在下での交流磁化率(1-1500 Hz)を測定した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
4配位四面体型Co(II)錯体はS = 2/3のスピン基底状態を有することから、300 Kでの磁化率はスピンオンリーの式よりχMT = 1.88 cm3mol–1Kと予想される。しかし、直流磁化率の測定から、[CoCl2(H2thp)2]および[CoBr2(H2thp)2]は共にχMT ≥ 2.7 cm3mol–1Kを示し、大きなスピン軌道相互作用の寄与が示唆された(Figure 1)。このような大きな磁気異方性を有する化合物は単分子磁石挙動を示すと予想される。そこで、[CoCl2(H2thp)2]について交流磁化率を測定した。その結果、外部磁場無しでは遅い磁気緩和は観測されなかったが、外部磁場を印加して磁化の量子トンネリングを抑制した場合、遅い磁気緩和が観測された。装置の利用時間の都合上[CoBr2(H2thp)2]については交流磁化率を測定できていないが、今後こちらの錯体についても測定し、その分子間水素結合相互作用と単分子磁石挙動の相関について検討していきたい。

Figure 1. χMT vs Tプロット

4.その他・特記事項(Others)
本研究を行うにあたって技術支援を賜りました分子化学研究所機器センターの方々に御礼申し上げます。また、実際の細かい測定方法等の助言を賜りましたコペンハーゲン大学Jesper Bendix教授および岡山大学理学部砂月幸成助教に深く感謝します。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし
6.関連特許(Patent)
なし

©2025 Molecule and Material Synthesis Platform All rights reserved.