利用報告書

非対称型N-ヘテロ環カルベン三座配位子を有するNi(II)錯体の合成と性質
柳生剛義
名古屋工業大学

課題番号 :S-16-NI-14
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :非対称型N-ヘテロ環カルベン三座配位子を有するNi(II)錯体の合成と性質
Program Title (English) :Syntheses and characterization of a Nickel(II) complexes with an unsymmetrical tridentate NHC ligand
利用者名(日本語) :柳生剛義
Username (English) :Takeyoshi Yagyu
所属名(日本語) :名古屋工業大学
Affiliation (English) :Nagoya Institute of Technology

1.概要(Summary )
N-ヘテロ環カルベン(NHC)を支持配位子とするPd(II)錯体は様々な反応で良好な触媒活性を示す。しかしながら、Pdは高価で希少な貴金属であるため、より安価な同族のNiを代替として用いる研究が活発に行われている。Ni(II)NHC錯体は対応するPd(II),Pt(II)錯体に比べて安定性が低く、支持配位子には多座配位子を用いる必要がある。そこで本研究では、2つのNHCが隣接した二種の三座型配位子前駆体と対応するNi(II)錯体を合成し、それらの基礎的特性を各種NMRスペクトル、X線構造解析によって明らかにした。

2.実験(Experimental)
三座型NHC配位子前駆体は、当研究室で独自に合成したN-クロロメチル-N’-メチルイミダゾリウムブロマイド1)とピリジルあるいはピリジルメチル置換イミダゾールから合成した。得られた前駆体と酸化銀(I)、塩化ニッケル(II)六水和物より、対応するNi(II)NHC錯体(1,2)を得た。
得られた錯体の各種特性をNMRスペクトル(Bruker AVANCE500US CryoProbe)、X線結晶解析(Rigaku/MSC Mercury CCD)により測定した。

3.結果と考察(Results and Discussion)
三座型NHC配位子前駆体および対応するNi(II)錯体は、1H NMRスペクトルと元素分析から、合成および単離精製できていることが示された。また、1H NMRスペクトルのシグナルは、すべて反磁性領域で観察されたことから、溶液中で平面四配位型構造を取っていることが示唆された。Ni(II)錯体は、アセトン-ジエチルエーテル溶液より再結晶することにより良好な単結晶が得られたことから、X線結晶解析を行った。その結果を図1に示す。錯体は、結晶中ではやや歪んだ平面四配位型構造を取ることが明らかになった。Ni-C間の結合距離は、中央のNHCでは三座キレートの立体規制のために1.806(2),1.841(2)Åとかなり短くなっていた。また、Ni配位平面に対する末端NHC環との二面角は錯体1が20.26(7)°であるのに対し、錯体2は49.77(6)°と大きくなっていた。これは、錯体の2のキレート環の方が大きく、sp3ピリジルメチル基を有するためと考えられた。

図1、錯体1(左)と錯体2(右)のORTEP図

4.その他・特記事項(Others)
参考文献
1) T. Yagyu, A. Tsubouchi, Y. Nishimura, J. Organomet. Chem., 767, 1-5 (2014).

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
永田英之, 柳生剛義, 錯体化学会第66回討論会, 2016年9月11日

6.関連特許(Patent)
なし

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