利用報告書
課題番号 :S-19-JI-0043
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :非接触原子間力顕微鏡用探針及び試料の表面元素分析
Program Title (English) :Surface analysis of samples and tips for non-contact atomic force microscopy
利用者名(日本語) :新井 豊子
Username (English) :T. Arai
所属名(日本語) :金沢大学
Affiliation (English) :Kanazawa University
1.概要(Summary )
非接触原子間力顕微鏡(nc-AFM)は、探針-試料間に働く相互作用力を、探針を取り付けた力センサーの共振周波数変化として検出する走査型プローブ顕微鏡(SPM)である。導電性探針を用いることで、探針試料間相互作用力と同時に、トンネル電流も検出可能である。我々は、音叉型水晶振動子に金属探針を取り付けたnc-AFM用力センサーを独自開発している。ここで、金属探針には、先端が原子レベルで鋭利であり、酸化膜や、有機汚染物がなく、電気抵抗が低いことがことが求められる。我々は、金属探針先鋭化法として、タングステン線を酸化性の炎の中で、酸化と昇華を繰り返す新たなエッチング法を試みている。燃焼ガスには水素酸ガス(H2:O2 = 2:1)を用いたタングステン線のエッチングは、一秒足らずで0.1 mmφのタングステン線が切断される。高速度カメラを用いてエッチング過程を観察した。さらに、エッチング条件を変えて作製したタングステン探針をオージェ分光分析顕微鏡により、形状観察及び、表面に残留した炭素(有機汚染物)および酸素(酸化膜)量を評価した。水素酸素燃焼ガスにエタノールを添加して炎エッチングすると酸化速度が遅くなることでエッチング速度が遅くなり、酸化膜残留の少ない先鋭なタングステン探針が作製できた。
2.実験(Experimental)
タングステン探針先鋭化法として、炎エッチングを導入した。燃焼ガスには、水素酸ガス(H2:O2 = 2:1)と、水素酸ガスに微量のエタノール蒸気を添加した混合ガスを用いた。エタノールの燃焼に酸素が使われるため、エタノールを混合することにより炎中の金属に対する酸化力が下がると考えられる。タングステン線は、400度以上の酸素雰囲気中で容易に酸化され、酸化膜は800度以上で、昇華する。すなわち、タングステン線を酸化性の炎の中に入れると、酸化と昇華を繰り返してエッチングされる。酸化及び昇華速度は、高温ほど速いため、内炎部に入れた部分が外炎部よりもエッチング速度が速い。このエッチング速度差により、タングステン線は先鋭化される(図1)。
エッチング条件を変えて作製したタングステン探針をオージェ分光分析顕微鏡(アルバックファイ社製SAM670Xi)を用いて、先端形状SEM観察及び、表面に残留した炭素(有機汚染物)および酸素(酸化膜)量を評価した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
外径約1 mmのトーチを用い、トーチ口から5〜25 mmの距離にタングステン線を挿入して、タングステン線の炎エッチングを行った。炎エッチング過程は、フォトロン社製高速度カメラ(FASTCAM_Mini_AX50)で観察し、取得した映像から、二色式温度計測法(Thermera)によりタングステンの温度を測定した。トーチ口から5 mmの距離の内炎は最高到達温度2800 ℃程度まで上昇した。水素酸ガス炎にトーチ口から5 mmに位置では、0.1 mmφのタングステン線が切断されるのに、250 ms、トーチ口から20 mmでは、850 msであった。炎温度が高いほど、エッチング速度が速いことが分かった。また、エタノール添加混合ガスによる炎の場合、トーチ口から5 mmに位置でもタングステン線が切断されるのに、1350 ms、添加無しに比べて5倍以上の時間を要した。これは、エタノール添加により炎による酸化速度が遅くなったためと考えられる。エッチング後のタングステン先端のSEM観察により、エッチングに要する時間が長いほど、内炎と外炎の温度差が少ないほど探針先端は鋭角になった。
次にオージェ電子分光によるエッチングされたタングステン探針の表面に残留した炭素と酸素量を計測した。図2に組成比算出のためのスペクトルからバックグランドの引き方を示した。水素酸ガス炎でトーチ口から5 mmと20 mm、エタノール添加水素酸ガス炎でトーチ口から5 mmでエッチングしたタングステン探針のタングステンオージェピークで規格化した表面残留の酸素、炭素量を比較した(表1)。燃焼ガスにエタノールを添加することで、残留酸化膜は減少す
水素酸素ガス エタノール添加
トーチ口から 5 mm 20 mm 5 mm
炭素 0.80 0.29 0.45
酸素 1.71 1.53 0.74
タングステン 1 1 1
る傾向を示した。炭素(有機汚染物)に関しては、有意差は認められなかった。今後、炎エッチングにより作製したタングステン探針を音叉型水晶振動子に接着し、nc-AFM/STM用探針としての有効性を検証していく。
4.その他・特記事項(Others)
なし
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし
6.関連特許(Patent)
なし