利用報告書

高原子価金属ニトロシル錯体の構築
小澤智宏1), 服部優里1), 五十嵐樹1), 増田秀樹2)(1) 名古屋工業大学大学院工学研究科, 2) 愛知工業大学工学部)

課題番号 :S-20-MS-1080
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :高原子価金属ニトロシル錯体の構築
Program Title (English) :Construction of a nitrosyl metal complex with higher oxidation state
利用者名(日本語) :小澤智宏1), 服部優里1), 五十嵐樹1), 増田秀樹2)
Username (English) :T. Ozawa1), Y. Hattori1),I. Igarashi1), H. Masuda2)
所属名(日本語) :1) 名古屋工業大学大学院工学研究科, 2) 愛知工業大学工学部
Affiliation (English) :1) Nagoya Institute of Technology, 2) Aichi Institute of Technology.

1.概要(Summary )
本研究ではこれまでに、一酸化窒素(NO)の選択的相互作用を示す金属錯体系の構築を行ってきた。選択性は配位子からの強い電子供与により中心金属位イオンのルイス酸性度の低下によりNO以外の分子やイオン、特に電気化学的なNO検出時に問題となる亜硝酸イオン(NO2-)に対して相互作用しにくい環境を構築することで、そのNO選択性を担保してきた。その一環として今回は強い電子供与基であるアミド窒素原子を配位子に導入したN2S3型の5座配位子を用いてCo(III)錯体(Fig. 1)を合成し、そのNOあるいはその誘導体との反応性について検討した。吸収スペクトルの変化から、NOはもちろんのことその酸化体であるNO+とも反応することがわかった。電子スピン共鳴装置 (ならびに1H-NMRスペクトルを測定し、金属イオンの電子状態について検討を行ったところ、コバルトの高スピン型であると帰属できるスペクトルが得られ、コバルトイオンがNO+と反応することにより、還元されたものと考えられる。
2.実験(Experimental)
嫌気条件下、アセトニトリル中において錯体の濃度を1 mMに調製し、必要に応じて希釈した。このサンプルにNOBF4を添加し、その反応性について紫外可視吸収スペクトル・IRスペクトルの測定を行なった。加えて今回支援いただいたのは、分子科学研究所所有の電子スピン共鳴装置 (Bruker社製 E-500)とNMRスペクトル(JEOL JNM-ECA600))である。なお電子スピン共鳴装置を用いた測定においては、温度4Kにおいて測定を行なった。
3.結果と考察(Results and Discussion)
 NOBF4を逐次的に添加し、Co(III) 錯体に対して2当量加えた際、490nm付近に等吸収点を持ち紫外可視吸収スペクトルが変化した。2当量添加後のアセトニトリル中におけるIRスペクトルを測定したところ、NO;イオン 由来の吸収に加え、1683cm-1に配位した新たな吸収体が現れた。これはコバルト中心と相互作用したNO+に由来するものと考えられる。
 そこで、コバルトイオンの電子状態を検討するため1H-NMRとESRスペクトルの測定を行った。1H-NMRで反磁性領域から大きく外れた常磁性領域にブロードしたシグナルが検出されたことから、常磁性種の存在が示唆された。またESRスペクトルを測定したところ、Fig. 1に示すように 4Kにおいて高スピン種の存在を示唆するスペクトルが得られた。このことからCo(III)イオンはNO+と相互作用することにより、Co(II)種に還元されていることが示唆された。通常NO+は酸化剤として作用することが知られており、今回得られた結果は、矛盾するものであり、今後溶媒の作用を考える必要がある。
4.その他・特記事項(Others)
なし
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 服部優里ら 日本化学会第101春季年会, 令和3年3月20日
6.関連特許(Patent)
なし

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