利用報告書
課題番号 :S-19-MS-1026
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :高移動度有機トランジスタ中のキャリアの電場誘起ESRによる研究
Program Title (English) :Field-induced ESR Studies of Charge Carriers in High-mobility Organic Transistors
利用者名(日本語) :黒田新一
Username (English) :S. Kuroda
所属名(日本語) :公益財団法人豊田理化学研究所
Affiliation (English) :Toyota Physical and Chemical Research Institute
1.概要(Summary )
有機トランジスタはフレキシブルで軽量なデバイスとして注目される。有機トランジスタの電荷輸送は有機半導体/絶縁体界面で行われるため、デバイス界面に注入されたキャリアの観測は重要な課題である。利用者らが開発してきた電場誘起ESR法は、トランジスタ界面でのキャリアのスピンを高感度に検出し、その電子状態、ダイナミクスや局所構造に関する知見を与える。本研究では、典型的な高移動度の高分子材料である立体規則性ポリチオフェン(P3HT)を対象とし、電場誘起ESR測定システムの構築を行い、これまでまだ十分解明されていない、電荷キャリアのポーラロンから非磁性のバイポーラロンへの電子状態変化や、デバイス界面の化学修飾によるキャリアダイナミクスの高速化などの現象について、ミクロな観点から探索、解明することを目的とする。
2.実験(Experimental)
電子スピン共鳴(CW法による室温測定)
有機トランジスタにおいて電界注入されたキャリアを、X-band ESRで検出するため、電場印可用のソース電源を導入した電場誘起ESR測定系を、昨年度に引き続き、電子スピン共鳴装置(Bruker EMX)を用いて構築した。典型的な高移動度高分子半導体であるP3HTのトランジスタ試料で電場誘起ESR信号の検出が出来ることを確認し、ESR信号の電界強度依存性や角度依存性を測定した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
昨年度に引き続き、電場誘起ESR測定系の構築・測定を行った。豊田理研で低ドープシリコン基板上に作製したP3HTトランジスタ試料を、複数のタイプの試料管セルを用いてESR装置のcavityに挿入し、Q値の大きな低下なしに、電界印可可能なことを確認し、電界印可によるESR信号の観測に成功した。ESR信号のg値からP3HTの電場誘起ポーラロン信号であることが確認され、またg値の角度変化から高分子が基板界面でedge-on配向をとることが確認された。さらに、ESR信号強度の印可電圧依存性から、高電圧ではESR信号強度の飽和傾向が観測され、これまで種々の絶縁膜のデバイスで観測された結果とよく符合し、P3HTのキャリアが電荷注入濃度の増加と共に、スピンをもつポーラロンから、非磁性のバイポーラロン(またはその前駆体であるポーラロン対)へ変化する現象がP3HTに固有の現象であることを裏付けた。一方、SiO2絶縁膜表面の自己組織化単分子膜による化学修飾で移動度が向上したデバイスでは、ESR信号線幅のキャリア熱運動による先鋭化傾向が、分子量の高い試料でこれまでよりも明瞭に観測され、デバイスの移動度との系統的な比較が意義あることが示された。
4.その他・特記事項(Others)
電場誘起ESR測定系の構築は、分子研の中村敏和,浅田瑞枝,藤原基靖の各氏にご協力いただいた。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
S. Kuroda, H. Tanaka, 15th European Conference on Molecular Electronics (ECME2019), 令和1年8月28日
6.関連特許(Patent)
なし