利用報告書

高結晶性逆ベロブスカイト型窒化物磁性薄膜の成長と評価
川口昂彦1) 脇谷尚樹2)
1) 静岡大学学術院工学領域, 2) 静岡大学電子工学研究所

課題番号 :S-16-MS-1089
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :高結晶性逆ベロブスカイト型窒化物磁性薄膜の成長と評価
Program Title (English) :Growth and Characterization of high-crystallinity thin films of
anti-perovskite magnetic nitride
利用者名(日本語) :川口昂彦1) 脇谷尚樹2)
Username (English) :T. Takahiko1), N. Wakiya2)
所属名(日本語) :1) 静岡大学学術院工学領域, 2) 静岡大学電子工学研究所
Affiliation (English) :1) College of Engineering, Shizuoka University, 2) Research Institute of
Electronics, Shizuoka University

1.概要(Summary )
Mn3CuNは、約150 K以下の強磁性相において最大で2000 ppmという巨大な磁歪を示し、超磁歪素子として期待できる。さらに薄膜として作製できればMEMSへの応用も可能となる。また、単結晶の作製が難しい窒化物材料にとって、高品質薄膜は基礎研究上も重要である。しかし、Mn3CuNはMn/Cu組成比や窒素欠損によって磁性転移温度や磁歪の大きさが変化するため、作製した薄膜の磁化特性を直接測定する必要がある。本研究では、近年我々が開発した「磁場印加パルスレーザー堆積(オーロラPLD)法」を用いてMn3CuN薄膜の作製を試み、得られた薄膜の磁化率測定を行った。

2.実験(Experimental)
測定試料については、静岡大学のオーロラPLD装置を用いてMn3CuNをターゲットにして、2000 Gの磁場を印加しながらNd:YAGレーザー(266 nm)によるアブレーションによりMgO(001)基板上に作製した薄膜を用いた。これらの試料の磁化率は、分子科学研究所が所有するSQUID磁束計(Quantum Design MPMS-XL7またはMPMS-7)を用いて測定した。測定条件は外部磁場1 Tとし、磁場印加方向は基板表面と平行になるように配置した。

3.結果と考察(Results and Discussion)
成長温度を室温から800℃、N2フロー量を10-2 torr から10-5 torrと、様々な作製条件で成膜を試みた。しかしX線回折(XRD)の結果では、いずれの薄膜でも、Mn3CuNの(002)に由来するピークが見られなかった。一方で、Mn3CuNの(111)に近い角度で回折ピークが見られたが、(Mn,Cu)Oの(002)ピークもこの角度に近く同定が困難であった。作製した試料の中で、最も窒素含有量の多かった(9%)試料の磁化率の温度依存性を図1に示す。この結果はMgO基板から生じる反磁性成分を除去したものであるが、室温付近から極低温まで常磁性的な振る舞いをしていることが分かる。もしMn3CuNが作製できていれば、窒素欠損があったとしても150~300℃程度のどこかで強磁性転移が見られるはずである。また、試料の抵抗が非常に大きく、ほぼ絶縁体であることが分かった。以上のことから得られた試料は(Mn,Cu)O、または(Mn,Cu)(O,N)であり、目的のMn3CuNが得られていないことが分かった。なお、ごく最近Mn3CuNの(002)ピークが観測される試料が作製できたため次年度の磁化率測定によってその特性を確認する予定である。

図1本研究で作製した薄膜の磁化率の温度依存性

4.その他・特記事項(Others)
なし。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし。

6.関連特許(Patent)
なし。

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