利用報告書
課題番号 :S-17-OS-0011
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :高融点材料プラズモニック共振器による熱輻射制御
Program Title (English) :Full Color Generation by Silicon Mie Resonators
利用者名(日本語) :高原淳一
Username (English) :Junichi Takahara
所属名(日本語) :1) 大阪大学, 工学研究科, 精密科学・応用物理学専攻
Affiliation (English) :1) Dep. of Applied Physics, Grad. School of Engineering, Osaka University
キーワード/Keyword :metasurface, optical antenna, color printing, electron beam lithography
1.概要(Summary)
近年、プラズモニック・メタマテリアル(金属微細構造により構成される人工有効媒質)によって極めて薄い構造で光を高効率で吸収できる狭帯域の完全吸収体が提案されている。このような極薄2次元のメタマテリアルはメタサーフェス(メタ表面)ともよばれ完全吸収体や狭帯域熱輻射エミッターへの応用が期待されている。
メタサーフェスはプラズモニック共振器(金属の光共振器)をメタ原子として用いて、吸収体とするものである。このメタ原子中の光は表面プラズモン・ポラリトン(Surface Plasmon Polariton: SPP)とよばれる金属中の自由電子が光と強く結合した状態で存在し、真空波長に比べて波長が大幅に縮小化される。このため光波長より十分小さな極薄の光共振器(<<)を実現できる。
メタサーフェスの研究においては、これまでプラズモニック材料(金属材料)として貴金属(金や銀)が用いられてきたが、熱輻射制御への応用においては融点の制約により温度は300℃程度にとどまっていた。このため融点が3000℃程度の高融点金属(タングステン、モリブデン等)の利用が検討されてきた。しかし、これらの高融点金属は可視域でプラズモニック効果を生じない。
可視光を含む広い波長域にわたってプラズモニック効果を利用するためには、高い融点と可視域で誘電率が負となる物性を兼ね備えたプラズモニック材料が求められている。このような材料としてTiNに代表される金属窒化物がある。その中でも我々は高融点プラズモニック材料としてハフニウムナイトライド(HfN)に注目した。HfNの融点は3330℃であり、モリブデン(融点2623℃)やタンタル(同3020℃)よりも高い。また、酸化ハフニウム(HfO2)は高誘電率(high k)材料として知られ、半導体製造プロセスとの親和性も高い。HfNは可視光域(400nm~750nm)で負誘電体である。HfNを可視域の高温耐性負誘電体として用いることで、赤外域~可視域の広波長域でシームレスにプラズモニック効果を実現できる。
本研究ではHfNを用いたプラズモニック共振器から構成されるメタサーフェスを実際に作製し、その熱輻射スペクトルを制御し、狭帯域熱輻射を実現した。
2.実験(Experimental)
【利用した主な装置】
S10 RFスパッタ装置
【実験方法】
金属層にHfN、誘電体層にHfO2/SiO2を用いたプラズモニック共振器から構成されるメタサーフェスの模式図を図1に示す。ここでは金属・誘電体・金属(Metal-Dielectric-Metal: MDM)構造とよばれる金属共振器構造を円盤状に加工し、メタ原子として平面上に配置している。MDM構造は完全吸収体となる典型的なプラズモニック構造である。
MDM構造の誘電体層の厚さはに比べて十分小さく、カットオフ効果のため誘電体層中にはSPPのみが伝搬できる。MDM構造は入射した光を光アンテナとしてふるまい効率的に中央の誘電体層のSPPに変換する。SPPは共振器中を往復してファブリ・ペロー(FP)共振器として働く。SPPの伝搬損失は金属のオーミック損失のために極めて大きく、SPPは金属層で吸収されて熱損失となる。MDM円盤構造の共振波長は直径で制御できるので、本メタサーフェスにより、可視光~赤外域の広い波長範囲にわたる完全吸収体・完全輻射体を実現できる。
実際に本メタサーフェスのサンプルを作製した(図2挿入図)。成膜にはRFスパッタリング装置を利用した。熱輻射スペクトルの計測はセラミックヒーターでサンプルを温度300℃に加熱して、FTIR分光器により中赤外域において行った。輻射率はリファレンスとして黒体スプレーサンプルを同温度で計測し、比較することで取得している。
3.結果と考察(Results and Discussion)
図2に熱輻射スペクトルの実験から求めた輻射率スペクトルを示す。これにより中赤外領域(ピーク波長4.2m)において0.99を超える高い輻射率が得られることを実証した。また、金と比較してHfN微細構造が高温環境下での安定性、耐久性に優れることを確認している。
本成果を用いると狭帯域の熱輻射光源を可視~赤外の広い波長域にわたり実現できる。これは高効率の照明用光源や環境計測用光源などに応用できる。
4.その他・特記事項(Others)
なし
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 豊田紘史、高原淳一:「HfNプラズモニック共振器を用いた熱輻射制御」、第65回応用物理学会春季学術講演会 19a-C301-6 (開催地:早稲田大学 西早稲田キャンパス)2018年3月19日.
(2) 高原淳一:「メタサーフェスによる光吸収・熱輻射制御の基礎と応用」、産業技術総合研究所 第10回「光ネットワーク超低エネルギー化技術拠点」/第7回電子光技術 合同シンポジウム 「フォトニクスが拓く超スマート社会~VICTORIES拠点の10年と光ネットワークの新しい展開」(開催地:秋葉原コンベンションホール)2018年1月26日(招待講演).
(3) 高原淳一、豊田紘史:「ナノ構造による白熱電球の高効率化」、第146回微小工学研究会~輝きを増す発光デバイス(開催地:早稲田大学西早稲田キャンパス 55号館)2017年12月19日.
(4) Hirofumi Toyoda and Junichi Takahara, "Thermal emission spectral control in wide range by refractroy metal nitride plasmonic resonators", Core-to-Core Symposium "Global Nanophotonics 2017", Book of abstracts p.45, Puerto Princesa City, Palawan, Philippines, December 7 (2017).
6.関連特許(Patent)
高原淳一、豊田紘史:特願2017-206855.