利用報告書

1細胞時空間分解ラマン分光による細胞状態同定とオミクスデータとの対応
小林鉱石
東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻若本研究室

課題番号 :S-16-NM-0021
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :1細胞時空間分解ラマン分光による細胞状態同定とオミクスデータとの対応
Program Title (English) :The Correspondence Between Raman Spectra and Transcriptome
利用者名(日本語) :小林鉱石
Username (English) :Koseki Kobayashi
所属名(日本語) :東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻若本研究室
Affiliation (English) :Wakamoto Laboratory, Department of Basic Sciences, The University of Tokyo

1.概要(Summary)
ラマン顕微鏡は,非破壊で対象試料の分子情報を網羅的に取得できる数少ない技術であるとして,近年注目を集めている.しかし,測定で得られるラマンスペクトルは多種多様な物質に由来するスペクトルの重ね合わせであり,その複雑な波形から分子情報を読み取るのは容易ではない.
本研究は,ラマンスペクトルとmRNA-seq等のオミクスデータとの対応を探ることで,スペクトルの解釈を可能にすることを目的とした.オミクスとの対応を明らかにすることで,単離された分子のラマンスペクトルデータベース等を参照せずに,直接スペクトルから分子情報を読み取ることが可能となる.
2.実験(Experimental)
【利用した主な装置】
 高速レーザーラマン顕微鏡
【支援内容】
 ラマン顕微鏡の使用トレーニングと技術相談の実施
【実験方法】
混合物のラマンスペクトルは,物質単体のスペクトルの線形重ね合わせになる.生体試料のラマンスペクトルは主にタンパク質や代謝産物を反映すると考えられているが,特に支配的であるタンパク質の発現量は平均的にはmRNA発現量と正の相関をもつことが知られている.そのため,理論的にはmRNA発現量とラマンスペクトルは線形対応すると予想される.そこで,完全培地や最少培地,窒素源/炭素源枯渇環境等,計10の様々なストレスに晒したときの分裂酵母のラマンスペクトルとmRNA-seqによるトランスクリプトーム解析を行い,これらが実際に線形対応するかどうかを検証した.
解析には,次元圧縮を伴う代表的線形回帰法であるPartial Least Squares Regressionを行い,交差検定法により両者の線形性を検証した.また,ラマンスペクトルからトランスクリプトームを予言するための線形計画問題を定式化し,Interior Point Methodを用いて予言を試みた.
3.結果と考察 (Results and Discussion)
結果,ほとんどの実験環境でラマンスペクトルとトランスクリプトームが線形対応することを確認した(Fig 1).また,スペクトルから未知環境のトランスクリプトームを同定することにも部分的に成功し,生細胞トランスクリプトーム解析の実現可能性が示唆された.

Fig 1. 図中の赤楕円内に赤△が含まれることが,スペクトルとmRNA-seqデータの線形対応を示している
4.その他・特記事項(Others)
なし
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) Koseki Kobayashi-Kirschvink et. al., “The Correspondence Between the Raman Spectrum and Total Omics”, 生物物理学会年会, 2016.11.25-27.
(2) Koseki Kobayashi-Kirschvink et. al., “The Correspondence Between Raman Spectra and Total Omics”, Single-Cell Biophysics: Measurement, Modulation, and Modeling, 2017.6.17-20(発表予定).
6.関連特許(Patent)
なし

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