課題番号 ：S-18-MS-1026
利用形態 ：施設利用
利用課題名（日本語）　 ：1,2,3-トリアゾール含有シッフ塩基配位子を用いた金属錯体の結晶構造と磁気的性質の解明
Program Title (English) ：Crystal Structures and Magnetic Properties of Metal Complexes Having 1,2,3-Triazole-containing Schiff-Base Ligands
利用者名（日本語） ：萩原宏明1), 加藤希望1), 加茂裕介1), 園田健人1), 三宅建1), 中田敬士2)
Username (English) ：H. Hagiwara1), N. Kato1), Y. Kamo1), K. Sonoda1), T. Miyake1), K. Nakata2)
所属名（日本語） ：1) 岐阜大学教育学部, 2) 岐阜大学大学院教育学研究科
Affiliation (English) ：1) Faculty of Education, Gifu University, 2) Graduate School of Education, Gifu University

１．概要（Summary）
　我々のグループでは、分子メモリ素子、分子スイッチング素子への応用が期待されるスピンクロスオーバー(SCO)錯体の開発を進めている。SCO錯体の応用に向けては、室温近傍での光によるスピン転移の実現が重要であり、光誘起準安定高スピン(HS)状態からの熱緩和の抑制が求められる。昨年度の施設利用では、分子科学研究所の光照射プルーブとXeランプを活用したSQUID型磁化測定装置による光誘起スピン転移(LIESST)の測定手法を立ち上げた。本年度は新たに複数の波長の小型レーザーを揃え、レーザー光源を用いたLIESST測定手法を検討した。実際に、当研究室で合成を進めてきた三脚型六座配位子SCO鉄(II)錯体[FeLR](NTf2)2 (R = Ph, Bn, 4-ClPh, 4-BrPh, 4-MeOPh)、及び直鎖状六座配位子SCO鉄(II)錯体[FeL3-2-3Ph](AsF6)2について、レーザー光によるLIESST評価を行ったので、その光照射実験について報告する。

２．実験（Experimental）
SQUID型磁化測定装置(Quantum Design MPMS-XL7)：粉末状にすり潰したサンプルの結晶（約1 mg）をセロハンテープに挟んで直径4 mmに切り抜き、測定試料とした。これを光照射用の石英サンプルホルダーに挟み込みロッドに取り付けた。この試料について、まず外部磁場1 T、掃引速度 2 K min−1にて300から10 Kの降温過程の磁化率を測定し、その結果を通常の温度依存測定の結果と比較することでテープに固定した試料量を見積もった。続いて、Edmund製レーザー(波長532, 635 nm)からの光を光ファイバーに導入し、10 K下で装置内の試料に光照射した。最後に、磁化が飽和した段階で光照射をやめ、300 Kまでの昇温過程（0.3 K min−1）の測定を行い、熱緩和温度を調べた。

３．結果と考察（Results and Discussion）
　10 K下での532 nm (5 mW/cm2)のレーザー光照射により、5つの三脚型錯体[FeLR](NTf2)2 は全て低スピン(LS)から完全なHS状態へのLIESSTを示した。一方、直鎖状六座配位子錯体[FeL3-2-3Ph](AsF6)2も532 nm (4 mW/cm2)のレーザー光照射によりLIESSTを示したが、その効率は約70%であった。そこで、波長635 nm (6 mW/cm2)のレーザーについても検討したところ、完全なHS状態への転移を示した。なお、昨年度のXeランプを用いた実験と同様に、直鎖状六座配位子錯体の方が三脚型錯体に比べて磁化飽和までに長時間を要した。以上のように今回、レーザー光を用いたLIESST実験手法を確立した。また、レーザー光源の波長選択性を活かして、配位環境の異なるSCO錯体のLIESST特性に関わる波長選択性も検討することができた。

４．その他・特記事項（Others）　本研究の一部は、科学研究費補助金・若手研究 (No.18K14240)の助成を受けて行った。

５．論文・学会発表（Publication/Presentation）
(1) H. Hagiwara, Magnetochemistry, Vol. 5（2019）p.p.10 (1-13).
(2) H. Hagiwara, R. Minoura, 43rd International Conference on Coordination Chemistry (ICCC2018), 平成30年8月4日. (ほか3件)

６．関連特許（Patent）　なし。