利用報告書
課題番号 :S-15-MS-1023
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :1,2,3-トリアゾール基含有シッフ塩基配位子を用いた金属錯体の結晶構造と磁気的 性質の解明
Program Title (English) :Crystal Structures and Magnetic Properties of Metal Complexes Having 1,2,3-Triazole-containing Schiff-Base Ligands
利用者名(日本語) :萩原宏明1), 大野拓也1), 杉野凌眞1), 洞志緒里1), 岡田翔平2), 箕浦涼2)
Username (English) :H. Hagiwara1), T. Ohno1), R. Sugino1), S. Hora1), S. Okada2), R. Minoura2)
所属名(日本語) :1) 岐阜大学教育学部, 2) 岐阜大学大学院教育学研究科
Affiliation (English) :1) Faculty of Education, Gifu University, 2) Graduate School of Education, Gifu University
1.概要(Summary)
当研究室では、1,2,3-トリアゾール基含有シッフ塩基配位子を用いたスピンクロスオーバー(SCO)錯体の開発を進めている。特に、分子メモリ素子への応用の鍵となる室温近傍でのスピン転移や巨大熱ヒステリシスの発現を目指した新規錯体の合成に注力している。今回、1-メチル-1,2,3-トリアゾール基含有シッフ塩基型四座配位子LMeを新たに設計し、補助配位子にNCSアニオンを用いた中性単核鉄(II)錯体[FeIILMe(NCS)2]を合成したところ、二種類の多形1A, 1Bが得られた。また、1位にフェニル基を導入した[FeIILPh(NCS)2] (2)も結晶化に成功した。これらの錯体は全て、室温以上、及び室温以下のそれぞれ異なる温度領域にてヒステリシスを持つSCOを示したため、磁化率の温度依存性測定及び単結晶X線構造解析により、磁性と結晶構造の関係を検討した。
2.実験(Experimental)
1) SQUID型磁化測定装置(Quantum Design MPMS-XL7, MPMS-7 + サンプルスペースオーブン):室温にて反磁性の錯体1B, 2は、結晶を軽く磨り潰し、アルミホイルに包んでカプセル状にしたものを石英管中央に入れ、上下を石英ウールで固定したものを測定試料とした。掃引速度 1 K min−1にて昇・降温過程の磁化率を測定した。
2) 単結晶X線回折装置 (Rigaku MERCURY CCD-1 + 試料吹付低温装置):ガラスファイバー上に接着した単結晶試料をゴニオメータヘッドに固定し、窒素吹付低温装置を用いて目的の結晶温度に保ち、回折強度を測定した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
磁化率測定の結果、1A, 1B及び2はそれぞれ、270 Kを中心に6 K、370 Kを中心に7 K、401 Kを中心に22 Kのヒステリシスを持つ高スピン(HS)↔低スピン(LS)状態間の完全なSCOを示した。また、単結晶X線構造解析より、全ての錯体は鉄(II)イオンに一つの四座配位子と二つのNCSアニオンが配位したN6八面体型の中性単核構造を持つことがわかった。さらに、全ての錯体について、HS及びLS状態の構造を決定することができた。多形1A, 1Bは共にCH···X (X = S or N)型の弱い水素結合のみからなる三次元構造を構築していたが、集積様式に違いがあった。また2では、LS状態においてCH···S水素結合による三次元構造の中に、1位に導入したフェニル基が分子間で–相互作用した二次元構造も含まれていた。さらに、HS状態へのSCOに伴いフェニル基の再配列が起こり、空間群の変化を伴う構造相転移を示した。これらの結果より、CH···X型の弱い水素結合のみでもヒステリシス発現や室温を跨ぐ100 Kもの範囲での転移温度制御に有効であること、及び弱い水素結合網に部分的に–相互作用を導入することで、ヒステリシス幅を拡大可能であることが分かった。
4.その他・特記事項(Others) なし。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) H. Hagiwara and S. Okada, Chemical Communications, Vol. 52(2016)p.p.815-818.
(2) ○萩原宏明, 鈴木美香, 日本化学会第96春季年会(2016), 3D6-50, 平成28年3月26日. (ほか5件)
6.関連特許(Patent) なし。







