利用報告書
課題番号 :S-17-MS-1082
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :30m望遠鏡TMTの第1期観測装置IRISのための駆動機械系の耐久試験後の成分分析
Program Title (English) :Componential analysis of mechanical parts in drive system, which is used for the first generation instruments, IRIS (InfraRed Imaging Spectrograph) for TMT (Thirty Meter Telescope) after the durability test.
利用者名(日本語) :早野裕1), 池之上文吾1), 齊藤栄1)
Username (English) :Y. Hayano1), B. Ikenoue1), S. Saito1)
所属名(日本語) :1) 自然科学研究機構国立天文台
Affiliation (English) :1) National Astronomical Observatory of Japan, National Institute for Natural Science
1.概要(Summary )
次世代の超大型光学赤外線30m望遠鏡TMT(Thirty Meter Telescope)の完成時に使用する第1期観測装置の1つである近赤外線撮像分光装置(InfraRed Imaging Spectrograph)において、その撮像部分は国立天文台が開発を担当することになっている。IRIS撮像系は真空容器に光学系を配置し、容器内の温度を液体窒素温度まで冷却し、赤外線の熱雑音を抑えるようにしている。IRIS撮像系の光学系機構部に使われるボールネジに関して、真空低温環境下で使える潤滑剤がなかなか見つからず、S膜コートと呼ばれる固体潤滑剤を評価してみることにした。この膜で被覆されたボールを組み込んだボールネジの耐久試験結果では、多少負荷トルクが増大するが寿命は耐えることが分かった。台内所有のキーエンス実体顕微鏡観察では、ボール表面は多少の面荒れがあり、ネジ軸軌道面に黒い斑点が点在するも、顕著な摩耗痕は観察できなかった。また、斑点がクレータなのか、付着物による突起なのかも判別できなかった。そこで、耐久試験で測定されたトルク負荷変動(ゴロゴロ感)の原因が、ボールと軌道面の面荒れだけなのか、黒く見える斑点も関係しているのかを確かめるために、SEM観察とEDX成分分析を行った。
2.実験(Experimental)
電子顕微鏡低真空分析走査電子顕微鏡(SEM)/Hitachi SU6600を利用した。ボールネジで使われた部品を半分に切断し、サンプル保持用のジグに両面テープで取り付けた(図1)。
図1. 半分に切断されたボールネジのハウジングをサンプルホルダーに取り付けた。
図2. ボールネジ各所のSEM画像
SEMの画像を見ながら、ボールネジの山頂部、軌道斜面、軌道底面で見られる黒い斑点が見られる部分を探し出し、EDX分析を行った。
3.結果と考察(Results and Discussion)
山頂部の黒い斑点部分では、炭素と酸素が顕著であった。
図3. 山頂部黒斑点のEDX分析画像
ボールネジの洗浄に使ったアセトンの残留なのか、別の炭素化合物であるかは判別は難しい。また、酸素が顕著な部分は酸化物である可能性も考えられる。一方、銅の成分が広範囲に存在することが見られる。
図4. 軌道底面部の黒斑点のEDX分析画像
ボールネジの軌道底面部の黒い斑点でも炭素及び酸素が見られる。また銅が帯筋状に分布している。
図5. 軌道斜面部の黒斑点のEDX分析画像
ボールネジの軌道斜面部の黒い斑点では炭素と窒素が見られたが酸素は見られなかった。また銅が帯筋状に分布している。
黒い斑点の周辺部分では鉄が全て検出され、ボールネジの材質が見えているものと思われる。そのため、黒い斑点に見られる炭素、酸素、窒素は付着物である可能性が高い。また、黒い斑点以外の部分に、硫黄などの小さな斑点も見られた。斑状の付着物としては、熱パス用のサーマルストラップが摩耗粉発生源と予想される。今後は、S膜の分析結果を付け加えて、軌道面の付着物が何か、ゴロゴロ感の原因は何かを判別していくつもりである。
4.その他・特記事項(Others)
分子科学研究所機器センターの酒井教授には測定に際し多大な助言をいただきました。また、電子顕微鏡低真空分析走査電子顕微鏡(SEM)/Hitachi SU6600の機器操作、データ取得は同機器センター〜の中尾氏、松尾氏が主に実施してくださいましたことを感謝いたします。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし
6.関連特許(Patent)
なし