利用報告書
課題番号 :S-20-NM-0023
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :31P NMRによるリン酸トリブチルの溶液物性の解明
Program Title (English) :Elucidation of solution property of tri-n-butyl phosphate using 31P-NMR
利用者名(日本語) :元川 竜平1), 上田 祐生1)
Username (English) :R. Motokawa1), Y. Ueda1)
所属名(日本語) :1) 日本原子力研究開発機構
Affiliation (English) :1) Japan Atomic Energy Agency
1.概要(Summary )
リン酸トリブチル(TBP)は、様々な金属イオンと錯形成して液液抽出分離することができる有機配位子である。この錯体溶液は、溶液の組成に依存して軽有機相と重有機相に相分離を起こす場合がある。そのメカニズムを明らかにすることを目的として31P-NMR測定を実施する。これまでに、相分離を起こす場合には錯体や有機配位子が酸、水分子を巻き込んだ凝集体を形成することが中性子小角散乱方と分子動力学計算によるシミュレーションによって明らかにされているものの[参考文献1]、局所的なTBPの構造や電子状態については十分に明らかにされていない。そこで、31P-NMRの測定結果を密度汎関数理論(DFT)計算でシミュレーションすることで、上記の凝集に伴うTBPの局所溶液構造を明らかにする。
2.実験(Experimental)
有機相は、0.5 mol dm−3のTBPを含んだn-オクタン溶液を使用し、水相は、1.0 mol dm−3のZr(NO3)4を含んだ10 mol dm−3硝酸水溶液を使用した。両相を混合し、25℃で30分間振とうした後、遠心分離し、軽有機相及び重有機相を分取した。各相を核磁気共鳴分光装置(JNM-ECS400, JEOL)により、測定温度−20℃、0℃、及び20℃で31P-NMR測定を行なった。
3.結果と考察(Results and Discussion)
図1の31P-NMRスペクトルから、軽有機相においても観察された−1.2 ppm付近のピークは、−20℃においても分裂しなかったことから、n-オクタン中では、遊離及び錯体中のTBPのP原子の電子状態は類似していることが示唆された。一方、重有機相溶液に特有の−8.1 ppm付近のピークは、温度の低下に伴い分裂した。この結果は、重有機相中では、遊離のTBPと錯体中のTBPのP原子の電子状態に明確な違いがあることを示唆している。
図1 TBP/n-Octane/Zr(NO3)4/HNO3/H2Oから構成される重有機相溶液の−20℃, 0℃, 及び20℃における31P-NMRスペクトル.
4.その他・特記事項(Others)
参考文献1: R. Motokawa, et al., ACS Central Science, 5, 85–96 (2019). DOI: 0.1021/acscentsci.8b00669.
利用にあたりNIMS服部氏、小原氏の支援を受けた。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) Y. Ueda, et al., Solvent Extraction and Ion Exchange, In Press, (2021), DOI: 10.1080/07366299.2021.1874115.
6.関連特許(Patent)
なし。