利用報告書

BaTaO2N粉末光触媒の活性とフェルミレベルの相関の検討
ベッキーゾ ジュニー1), 久富隆史1),堂免一成1,2)(1) 信州大学先鋭材料研究所, 2) 東京大学特別教授室)

課題番号 :S-20-MS-0030
利用形態 :協力研究
利用課題名(日本語) :BaTaO2N粉末光触媒の活性とフェルミレベルの相関の検討
Program Title (English) :Examination of correlation between activity and Fermi level of particulate BaTaO2N photocatalysts
利用者名(日本語) :ベッキーゾ ジュニー1), 久富隆史1),堂免一成1,2)
Username (English) :J. Vequizo1), T. Hisatomi1), K. Domen1,2)
所属名(日本語) :1) 信州大学先鋭材料研究所, 2) 東京大学特別教授室
Affiliation (English) :1) RISM, Shinshu Univ., 2) Office of University Professors, Univ. Tokyo

1.概要(Summary )
BaTaO2Nは酸素生成活性に優れる可視光応答型光触媒材料であるが水素生成活性は低かった.これは,n型半導体であるために表面近傍に電子移動を妨げるエネルギー障壁を形成しやすいためだと考えられる.最近,調製条件の改良によりメタノール水溶液からの水素生成反応に高活性なBaTaO2N光触媒が得られた(Nat. Commun. 2021, 9, 1005).このBaTaO2N光触媒は真性半導体化したために,電荷分離特性が変化している可能性がある.そこで本課題では,水素生成反応に活性なBaTaO2N光触媒(試料①)と酸素生成反応に活性なBaTaO2N光触媒(試料②)のフェルミレベルを紫外光電子分光法(UPS)により決定し,光触媒活性との相関を検討した.
2.実験(Experimental)
機能性材料バンド構造顕微分析システム(S-MS-095)を利用して,BaTaO2N光触媒粉末の紫外光電子分光測定を行った.BaTaO2N粉末/Au薄膜/両面テープ/ガラス基板からなる測定試料片を粒子転写法で作製した.
3.結果と考察(Results and Discussion)
図1Aにフェルミレベル近傍のUPSスペクトルを示す.試料①(図1Aa)は試料②(図1Ad,e)よりもスペクトルの立ち上がりが低結合エネルギー領域にあり,より真性半導体的であることを示唆している.しかし,試料②の同一試料片を別の位置で計測するとスペクトルの立ちあがりはほぼ重複した(図1Ac).また,Auの露出が顕著な場合にはAuに由来するシグナルのために結果の解釈が困難であった(図1Ab).そこで,AuのUPSスペクトルとの差分をとることで,Auに由来するシグナルを除くことを試みた(図1B).Auのシグナルが強すぎる場合にはスペクトルが歪み,解析できなかった(図1Bb).それ以外のスペクトルを比べると,試料①(図1Ba)は試料②(図1Bd,e)よりもスペクトルの立ち上がりはやや急峻であったが,試料②(図1Bc)との違いはほとんど見られなかった.また,スペクトルの立ち上がりを結合エネルギー軸に外挿すると,試料①と②には系統的な違いが見られなかった.よって,試料①と②のフェルミレベルには差が認められないと判断した.
今回の測定では試料は粒子転写法で作製されたが,Auの露出割合が大きく変動も大きいために,測定結果のばらつきが大きかった.より信頼できる結果を得るには,下地のAu層を避けて粒子をピンポイントで計測可能な分析法が必要であると考えられる.

図1.BaTaO2N試料のUPSスペクトル.(a)試料①,(b-e)試料②.(A)は生データ,(B)はAu単結晶のスペクトルとの差分データ.

4.その他・特記事項(Others)
測定・解析にあたっては,分子科学研究所の解良聡教授、長谷川友里フェローに全面的にご指導いただいた。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし
6.関連特許(Patent)
なし

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