利用報告書

Bi1-xSrxFeO3のメスバウアー分光測定
戸村勇登, 及川 格, 高村 仁
東北大学大学院工学研究科

課題番号 :S-15-NI-46
利用形態 :共同研究
利用課題名(日本語) :Bi1-xSrxFeO3のメスバウアー分光測定
Program Title (English) :Mössbauer spectroscopic study of Bi1-xSrxFeO3
利用者名(日本語) :戸村勇登, 及川 格, 高村 仁
Username (English) :Y. Tomura, I. Oikawa, H. Takamura
所属名(日本語) :東北大学大学院工学研究科
Affiliation (English) :Graduate School of Engineering, Tohoku University

1.概要(Summary )
 BiをSrで一部置換したBi1-xSrxFeO3は高い酸化物イオン・電子混合導電性を示すことから、SOFCカソードや酸素透過膜材料として期待されている[1-3]。アクセプターであるSrは酸素空孔の生成により電荷補償され、Feは3価の状態であることが酸素不定性や電気伝導度測定から示唆されていたが、一部のFeが4価となる可能性や、2価と4価に不均化している可能性も残る。そこで、Sr量xが0.2、0.3、0.4の試料について室温でのメスバウアー分光を実施したところ、Feは3価の高スピン状態であり、スタティックな価数不均化もないことが判明した。
2.実験(Experimental)
 Bi1-xSrxFeO3 (x = 0.2, 0.3, 0.4)は固相反応法により合成され、格子定数はベガード則に従う変化を示した。約80 mgの粉末試料を真空グリースと混ぜ合わせて約15 ×15 mm2の純Al箔に挟み込み、通常の透過法で速度範囲±12 mm/sにてメスバウアースペクトルを測定した。速度校正はα-Fe箔のスペクトルで行いスペクトルの重心位置を速度0 mm/sの基準に設定した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
 図1にx = 0.2, 0.3, 0.4の試料について測定されたメスバウアースペクトルを示す。主成分は、磁気秩序相に起因する6本の磁気分裂パターンであり、主成分のアイソマーシフト(IS)および内部磁場(HF)の値はFe3+高スピンの典型値であった。また、わずかに不純物相と考えられる非磁性相に起因する四極子分裂パターンが共存していた。Sr量の増加に従い、内部磁場の小さい磁気分裂サイトの相対面積が増加する傾向があるが、これはSr置換によるFeの磁気的環境の乱れを反映している可能性がある。スペクトルにおいて、Fe2+/Fe4+のような価数不均化の兆候はみられず、仮に価数不均化があったとしても、測定温度の室温においてはメスバウアー分光の観測時間より価数ゆらぎの時間の方が短い。すなわち、今回の測定から、室温ではFeは3価であり、スタティックな価数不均化もないことが判明した。なお今回の測定試料はBi含有量が多く、Bi LIII吸収端(13.4 keV)による57Feメスバウアーγ線(14.4 keV)の吸収、および、2次電子の放出のためS/N比が悪く長時間測定が必要であった。さらなるS/N比の向上には、57Feエンリッチ試料の作製が必要である。

図1: Bi1-xSrxFeO3のメスバウアースペクトル
4.その他・特記事項(Others)
参考文献:[1] K. Brinkman et al., Solid State Ionics, 181 (2010) 53. [2] D. Baek et al., Solid State Ionics, 253 (2013) 211. [3] D. Baek et al., Solid State Ionics, 262 (2014) 691.
謝辞:本研究の一部はJSPS科研費26249103の助成を受けたものです。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
 なし
6.関連特許(Patent)
 なし

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