利用報告書

BiFeO3ナノ粒子, FeNi細線, Yb-YAIGの磁気的性質の解明
嶋 睦宏1)
1) 岐阜大学工学部

課題番号 :S-16-MS-1009
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :BiFeO3ナノ粒子, FeNi細線, Yb-YAIGの磁気的性質の解明
Program Title (English) :Magnetic Study of BiFeO3 nanoparticles, FeNi nanowires, and Yb-YAIG
利用者名(日本語) :嶋 睦宏1)
Username (English) :M. Shima1)
所属名(日本語) :1) 岐阜大学工学部
Affiliation (English) :1) Gifu University

1.概要(Summary)
ガーネット酸化物は構成元素の組み合わせにより光学特性や磁気特性など多様な物性を示すことから、機能性材料として今後も光磁気デバイスなどへの更なる応用が期待されている。ガーネット結晶の構造は空間群Ia3 ̅dに分類され、結晶中の金属イオンは十二面体(c)サイト、八面体(a)サイトおよび四面体(d)サイトを占める。Fe3+を含むガーネットの場合、Fe3+は主にaサイト及びdサイトを占める。これらは紫外から近赤外までの波長域で光を吸収するため(aサイトで1100 nm近傍、dサイトで800 nm近傍)、可視光域での蛍光発現には不利である[1]。しかし、aサイトのFe3+を他の金属イオンで置換することで近赤外域の蛍光を発する磁性ガーネットが得られる可能性がある。そこで本研究では、近赤外域で蛍光を発するYb:YAG[2]とYb:GAGのaサイトを占めるAl3+の一部を磁性Fe3+およびSc3+で置換したガーネット酸化物を合成し、その結晶構造、光学特性および磁性を調べることを目的とした。

2.実験(Experimental)
ガーネット酸化物試料は、共沈法による合成と熱処理により作製した。初めに各金属硝酸塩(Gd(NO3)3・5H2O, Al(NO3)3・9H2O, Fe(NO3)3・9H2O, Sc(NO3)3・4H2O, Yb(NO3)3・3H2O, Y(NO3)3・6H2O)を濃度0.32 Mに調整した溶液を目的組成と同じ比率で混合し、アンモニア水を用いてpH 9.0に保持しながら沈殿物を合成した。次に、この沈殿物を343 Kで10時間乾燥し、大気中で温度1473 Kで6時間アニールを行い、ガーネット酸化物試料を得た。各試料の結晶構造をX線回折法(XRD)、磁気特性を超伝導量子干渉素子(SQUID)磁束計および振動試料型磁力計(VSM)、光学特性を蛍光分光光度計および紫外可視近赤外分光光度計で各々測定した。

3.結果と考察(Results and Discussion)
3.1 Yb:YSAIG([Yb0.45Y2.55][Sc2.0][Al3.0-zFez]O12)
XRDによる結晶構造測定の結果、全ての組成の試料においてガーネット相に由来する回折ピークが観測され、Fe3+組成zの増加に伴いピークが低角度側にシフトすることを確認した。0 ≤ z ≤ 2.5の組成域では単相であったのに対し、z = 3.0ではガーネット相以外にペロブスカイト相等に由来するピークも確認した。
室温で測定した940 nm励起での蛍光PL(Photo Luminescence)スペクトルを図1に、吸収スペクトルを図2に各々示した。PLスペクトルからYb3+特有の2F5/2 → 2F7/2遷移の蛍光を観測した。また、z = 0.5 ~ 2.5の試料ではFe3+組成zの増加に伴い蛍光強度の減少が確認された。図2の吸収スペクトルから、Fe3+組成(z)が増加するにつれ850 ≤ λ ≤ 1050(nm)、620 nmのピーク及び測定端である500 nmのピークの上昇が観測された。Yb:YIG(図2破線)と比較すると900 nmにおける吸収はaサイトのFe3+による6A1g → 4T1g遷移吸収であり[1]、吸収強度が増大していることおよび蛍光強度が減少していることからFe3+がaサイトに置換していることが示唆された。また、620 nmのピークからFe3+がdサイト中に存在していることが確認された。
SQUID磁束計を用いた5 Kでの磁化測定の結果(図3)、いずれのFe3+組成zにおいても試料は常磁性であった。これはSc3+がaサイトを優先的に占有していると仮定すると、dサイトにのみFe3+が存在し、隣接するaサイトにFe3+がないことから、これらの間で超交換相互作用[3]による磁気秩序が発生しないためであると考えられる。
3.2 Yb:GSAIG([Yb0.45Gd2.55][Sc2.0][Al3.0-zFez]O12)
すべての組成域においてXRDスペクトルでガーネット相に由来する回折ピークが観測された。また、Yb:YSAIGの場合と同様にz = 3.0の試料のみーネット相以外にペロブスカイト相等に由来するピークが確認された。
室温で測定した励起波長940 nmでのPLスペクトルからYb3+特有の蛍光を観測した。また、z = 0 ~ 2.5の試料ではFe3+組成(z)の増加に伴い蛍光強度の減少が確認された。吸収スペクトルから、Fe3+組成(z)が増加するにつれ、Yb:YSAIGと同様のピーク強度の増大が確認された。波長900 nmにおける吸収が増加し、蛍光強度が減少していることがわかる。このことはFe3+のaサイト置換を示唆している。
温度5 Kにおいて、最大磁場40 kOeの条件で試料の磁化を測定したところ、全組成域において磁化の飽和が観測されずフェリ磁性的なヒステリシス曲線は得られなかった(図4参照)。またFe3+組成zの増加に伴い、印加磁場40 kOeでの磁化の値が減少する傾向がみられた。常磁性では磁性イオンであるFe3+, Gd3+, Yb3+の磁気モーメントは磁場の印加により、平行に配列すると考えられるが、今回、Fe3+組成zの増加によって磁化が減少することからGd3+, Fe3+, Yb3+の磁気モーメントが平行または反平行になっていることが考えられる。
4.その他・特記事項(Others)
参考文献
[1] D. L. Wood and J. P. Remeika: J. Appl. Phys. 38, 1038
(1967).
[2] G. G. Demirkhanyan, Laser phys. 16, 1054-1057
(2006).
[3] 近角聰信「強磁性体の物理(下)」第7章20.動的 磁化過程(裳華房 1984).
謝辞
本研究実施にあたり支援いただいた分子科学研究所 機器センター 藤原基靖氏、上田正氏、中川信代氏、伊木志成子氏、横山利彦氏に感謝します。本研究の一部は科研費基盤(C) No. 26420679により実施しました。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 近藤慎吾, 山田啓介, 嶋 睦宏, 応用物理学会, 2016/9.
(2) 林兼輔、山田啓介、嶋 睦宏、応用物理学会、2016/9.
(3) 竹本智幸, 山田啓介. 嶋 睦宏. 材料フォーラム, 2016/11.
(4) K. Hayashi, K., Yamada, and M. Shima, ISPlasma2017, 2017/3.
(5) M. Shima, Malaysia-Thailand-Japan Int’l Conf. on Sci & Technol., 2016/9.
(6) T. Imai and M. Shima Jap. J. Appl. Phys. 56(1S), 01AE04 (2017).
(7) K. Hayashi, K. Yamada, and M. Shima, Mater. Lett. (in press).
6.関連特許(Patent)
なし。

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