利用報告書
課題番号 :S-19-MS-1030
利用形態 :施設利用
利用課題名(日本語) :Cu(I)錯体の励起状態構造の時間分解ESRによる解明
Program Title (English) :A time-resolved EPR study of the excited states of copper(I) complexes
利用者名(日本語) :浅野素子1) , 橋本祥1), 小堀健1)
Username (English) :M. S. Asano1, Sho Hashimoto1), Ken Kobori1)
所属名(日本語) :1) 群馬大学大学院理工学府
Affiliation (English) :1) School of Science and Technology, Gunma University
1.概要(Summary )
フェナントロリン誘導体を配位子に持つ1価の銅錯体は、光励起により、中心金属イオンから配位子への電荷移動(MLCT)励起状態を形成し、発光あるいは電子移動反応を起こす。Cu(I)錯体は発光材料および光エネルギー変換材料素子として、近年最も注目されている光機能性金属錯体である。しかし、その励起三重項状態の構造と発光メカニズムは未知の部分が多く、錯体設計においても試行錯誤的である。これまで遷移金属錯体の電荷移動励起状態については時間分解ESRの観測例がないが、Cuは第一遷移金属イオンであり、スピン―軌道相互作用も比較的小さく、観測できる可能性を十分持っている。そこでCu(I)錯体励起三重項状態の時間分解ESRによる観測を試み、その励起構造の解明を目的とした。
2.実験(Experimental)
ESR 分光計はBruker E680 を用い、励起光はSpectra Physics社製LAB-170-50-THGBU-Wで励起したPrimoScan ULD-240UVS1-Wによる出力、415 nm ~ 560 nmを試料に応じて用いた。温度はクライオスタットにて12Kに制御した。X band (マイクロ波 9.6 GHz )測定では誘電体キャビティを用いた。Q band (マイクロ波 34 GHz) の測定では2種の共振器を試した。測定は、マクロ波はCWモードで用いて、光励起によるマイクロ波の試料による吸収・発光を時間分解にて検出した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
2019年度は通常のX bandより周波数の3倍高いQ-bandを用いた時間分解ESR信号の検出について検討・調査した。問題点の1つであった励起光の出力不足および不安定性は、2019年3月にレーザーが更新され、結果として2020年1-3月期には大きく改善された。CW用キャビティにおいてはバックグランドが試料管およびサンプルホルダーの偏心に起因していることが明らかとなり、ほぼ安定した信号がとれることが判明した。一方、パルス用キャビティでは光照射窓面積が小さく信号強度は小さくなってしまう。これまでに2種の非常に大きなXバンド信号を示すCu(I)錯体において、Qバンド信号の検出に成功した。今後はさらにS/Nを向上させたスペクトル取得を行い、励起構造の解析を行うと共に、他の錯体についての可能性を探る予定である。
4.その他・特記事項(Others)
本研究は一部、科学研究費補助金基盤C(17K05801)によって支援された。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) Motoko S. Asano,Yoshifumi Yasuda, Sho Hashimoto, Michihiro Nishikawa, Taro Tsubomura, Takeshi Kodama, Hiroyuki Takeda and Osamu Ishitani, “Charge Transfer Excited States of Heteroleptic Copper (I) Complexes”, International Conference on Photocatalysis and Photoenergy 2019, Inchon(Korea), 令和元年5月24日
(2) Motoko S. Asano,Yoshifumi Yasuda, Sho Hashimoto, Michihiro Nishikawa, Taro Tsubomura, Takeshi Kodama, Hiroyuki Takeda4 and Osamu Ishitani, “Spin-polarization in the Charge Transfer Excited State of Cupper (I) Complexes”, 16th International Symposium on Spin and Magnetic Field Effects in Chemistry and Related Phenomena (SCM2019), St. Petersburg(Russia) 令和元年8月19日
(3) 橋本 祥, 浅野素子, 兒玉 健, 西川道弘3, 坪村太郎, 竹田浩之, 石谷 治, “ヘテロレプティックな二核Cu(I)錯体の時間分解EPRスペクトル”, 第58回電子スピンサイエンス学会年会, 川崎(神奈川), 令和元年11月7日
6.関連特許(Patent)
なし