利用報告書

DNA構造を利用したフラビン-トリプトファン光誘起ラジカルペア・システムの構築
岡芳美(大分大学全学研究推進機構)

課題番号 :S-20-MS-1028
利用形態 :機器センター施設利用
利用課題名(日本語) :DNA構造を利用したフラビン-トリプトファン光誘起ラジカルペア・システムの構築
Program Title (English) :Construction of Photoinduced Radical Pair System between Flavin and Tryptophan using DNA Structure
利用者名(日本語) :岡 芳美
Username (English) :Y. Oka
所属名(日本語) :大分大学全学研究推進機構
Affiliation (English) :Research Promotion Institute, Oita University

1.概要(Summary )
生体内で、青色光受容体タンパク質クリプトクロムが高感度磁気センサーとして働いている可能性が強く示唆されている。その機構は、クリプトクロム中のフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)が青色光により励起されたとき、アミノ酸(トリプトファン、Trp)との間で電子移動が起こり、その結果生じるラジカルペアのために、微弱磁場であっても反応効率の差として検出できると推定されている。本課題では、この磁気センシング機構に着目し、DNA-DNAまたはペプチド核酸(PNA)2重鎖中のフラビンとTrpを対象に、フラビンを青色光で励起したときにTrpから電子移動が起こるようモデル系を設計、構築した。フラビン-Trp・ラジカルペア形成における反応機構の評価(スピン分極の観測)、最終的な3重項ラジカルペアの寿命評価を目的とし、時間分解電子スピン共鳴(TR-ESR)測定を行った。
2.実験(Experimental)
① 水溶性のリボフラビンとグルタル酸無水物を出発原料として、比較的親水的なカルボン酸構造を持つフラビン分子を合成し、3’-末端にリンカーを介して修飾されたアミノ基とアミド結合で連結させたDNAオリゴマーを得た。3’-末端から3塩基目にGを含むオリゴマー(①-Fl-G)とGをInosine置換したオリゴマー(①-Fl-I)を比較検討に用いた。 ② ①と相補的で、5’-末端にリンカーを介して修飾されたアミノ基と3-indolepropionic acidをアミド結合で連結させたDNAオリゴマー(②-Ind)と無修飾オリゴマー(②-N)を得た。 ③ 分子科学研究所 機器センターで、①と②のDNA2重鎖についてDSC測定(VP-DSCを使用)を行い、融解温度を求めた。 ④ 分子科学研究所 機器センターで、TR-ESR測定を行った。Bruker E680(X-band)とNd:YAG-OPOレーザーを用い、ナノ秒光パルス(励起波長450 nm、レーザーパワー〜2 mJ、繰り返し周波数30 Hz)照射後のTR-ESR測定を行った。4×10 mmの偏平セルを使用し、サンプル溶液の脱気処理のため、真空及びHe雰囲気下で凍結融解を繰り返した後、封管した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
DSC測定から、室温程度まではDNA2重鎖①/②が維持されていることを確認した。TR-ESR測定から、1本鎖DNA、①-Fl-Gについて(2重鎖DNA、①-Fl-G/②-Nでも同様)、5 ℃における10% DMSO水溶液で、マイクロ波パワー2 mW条件下、光励起後に、3440 G付近の磁場領域において発光(E)/吸収(A)の分極パターンが観測できた(分子内フラビン-G・ラジカルペアが生成)。2重鎖DNA、①-Fl-I/②-Indでは(分子間フラビン-Trp・ラジカルペア由来の)シグナルは観測できなかった。しかしながら、①-Fl-Gのシグナルは、②-Indで打ち消される(分子間Trpの寄与はある)ことが分かった。
4.その他・特記事項(Others)
<謝辞> 本研究は、(公財)池谷科学技術振興財団 単年度研究助成、(公財)渡邉財団 磁気健康科学研究助成、大分大学長戦略経費の助成を受けて実施した。実際のTR-ESR測定では、機器センターの藤原基靖氏、上田正氏、伊木志成子氏に、TR-ESR測定では、機器センターの長尾春代氏にご協力いただいた。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) Y. Oka, ACS Omega, Vol. 55(2020)p.p. 21226-21230.
(2) Y. Oka, T. Miura, T. Ikoma, J. Phys. Chem. B, (2021)in press.
(3) Y. Oka, 日本化学会第101春季年会(2021), 令和3年3月21日.

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