利用報告書

GaSe終端Ge(111)表面の電子状態測定
新田寛和, 横尾雄士, 高村由起子(北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科)

課題番号 :S-20-MS-0026
利用形態 :協力研究
利用課題名(日本語) :GaSe終端Ge(111)表面の電子状態測定
Program Title (English) :Electronic structure measurement of GaSe-terminated Ge(111) surface
利用者名(日本語) :新田寛和, 横尾雄士, 高村由起子
Username (English) :H. Nitta, T. Yokoo, Y. Yamada-Takamura
所属名(日本語) :北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科
Affiliation (English) :School of Materials Science, Japan Advanced Institute of Science and Technology

1.概要(Summary )
セレン化ガリウム(GaSe)は空間反転対称性の破れに起因する非線形光学特性を有する、約2eVのバンドギャップを持つ層状物質である。最近、圧力印加によるトポロジカル絶縁体への相転移[1]や、ホールドープによる単層(4原子層)の強磁性相転移[2]が理論研究により予測されている。実験的には、多層GaSeについて、GaAsの10倍大きなスピン軌道相互作用が磁気量子伝導度測定から示される[3]など、次世代デバイス材料として注目されている。
我々の研究グループは、Ge(111)上に分子線エピタキシー(MBE)法により単結晶配向GaSe薄膜を成長し、その基板表面が6%の引張歪を持つ半層(2原子層)GaSeに終端されていることを断面走査透過電子顕微鏡観察により明らかにした[4]。このGaSe終端Ge(111)表面に関して第一原理電子状態計算を行った結果、ギャップの開いたバルクGeの電子状態に加えてGaSeに由来するディラック・コーン(DC)様の電子状態が見出された。本研究課題では、その電子状態を角度分解光電子分光(ARPES)により実測することを目的とする。

2.実験(Experimental)
GaSe終端Ge(111)試料は、利用者の所属する大学のMBE装置を用いて作製した。Ge(111)ウェハ表面の自然酸化膜を超高真空下での加熱により除去し、GaとSeのK セルの温度とシャッターの開閉を適切に制御することでGe(111)表面を終端した。その後、大気中での酸化を防止するためにその表面をキャッピングして大気中に取り出し、分子科学研究所に持参した。機能性材料バンド構造顕微分析システムに持参した試料を導入し、加熱によりGaSe終端Ge(111)表面上のキャッピング層を除去し、計算の結果DC様電子状態が存在したΓ点近傍に着目して測定を行った。

3.結果と考察(Results and Discussion)
測定の結果、価電子バンド構造は計算結果と概ね一致した。一方で、フェルミ準位はGe由来のバンドギャップ中ではなく、価電子帯頂上に位置しており、ホールドープされていることが示唆された。着目した電子状態の有無を確認するためには、今後、アルカリ金属蒸着等により電子ドープした試料の測定が必要である。また、計算結果にはない、Γ点に対し非対称なバンドが測定されたが、表面回折パターンからGe(111):Gaモアレ構造形成との関係が示唆され、今後、精査が必要とされる。

4.その他・特記事項(Others)
[1] Z. Zhu, Y. Cheng, and U. Schwingenschlögl, Phys. Rev. Lett. 108, 266805 (2012).
[2] T. Cao, Z. Li, and S. G. Louie, Phys. Rev. Lett. 114, 236602 (2015).
[3] S. Takasuna, et al., Phys. Rev. B 96, 161303(R) (2017).
[4] T. Yonezawa, et al., Surf. Interface Anal. 51, 95-99 (2019).
測定をご指導いただいた解良聡先生、長谷川友里博士に深く感謝いたします。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし。

6.関連特許(Patent)
なし。

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