利用報告書

Keggin型ポリ金属酸コバルト(II)錯体の遅い磁気緩和挙動の解明
石崎聡晴(日本大学文理学部)

課題番号 :S-20-MS-1071
利用形態 :機器センター施設利用(後期)
利用課題名(日本語) :Keggin型ポリ金属酸コバルト(II)錯体の遅い磁気緩和挙動の解明
Program Title (English) :Elucidation of slow magnetic relaxation behaviors of Keggin-type polyoxocobaltate(II) complexes
利用者名(日本語) :石崎聡晴
Username (English) :T. Ishizaki
所属名(日本語) :日本大学文理学部
Affiliation (English) :1) Colledge of Humanities and Sciences、Nihon University

1.概要(Summary )
分子の磁気異方性に由来する遅い磁気緩和現象は、単分子磁石挙動として分子情報ストレージおよびス
ウィッチング材料などへの応用が期待されている。近年では分子内に1つの常磁性イオンがある特定の配位環境に置かれた場合に生じる大きな磁気異方性を活用した研究が盛んである。近年、四面体型4配位のCo(II)単核錯体の外部静磁場の非適用下における遅い磁気緩和の報告から多くの注目を集めている。1タングステン(VI)やモリブデン(VI)イオンの酸化物からなるポリオキソメタレートの中には、第一遷移金属イオンなどのヘテロイオンに四面体型の配位子場を与えるKeggin型と呼ばれる構造が知られている。このポリ酸骨格の組成[CoIIM12O40]6-(M=WVIまたはMoVI)で表されるアニオン体となっており、様々なカチオンの導入が可能である。本申請ではKeggin型タングストコバルト(II)酸のテトラメチルアンモニウム塩およびテトラブチルアンモニウム塩の磁化率測定を行い、磁気異方性および磁気緩和についての知見を得るために研究を行った。
2.実験(Experimental)
本申請では、コバルト(II)イオンを持つKeggin型タングストポリ酸の磁化率測定をSQUID型磁化測定機器 Quantum Design MPMS-7およびMPMS-XL7を用いて行った。直流磁化率測定は静磁場1000 Oe下、300 Kから1.8 Kで測定を行い、磁化測定は1.8 Kから10 Kの温度範囲で7 Tまでの静磁場下で行った。交流磁化率測定は1-1340 Hzの交流磁場3.9 Oeで、静磁場の非適用下および静磁場の適用下における測定を行った。

3.結果と考察(Results and Discussion)
Keggin型タングストコバルト(II)酸のテトラメチルアンモニウム塩((CH3)4N)6[CoW12O40]・9H2Oとテトラブチルアンモニウム塩(C4H9)4N)4H2[CoW12O40]の直流磁化率測定の結果、χMT値はそれぞれ300 Kで2.422 cm3 mol-1 Kおよび2.492 cm3 mol-1 Kとほぼ同様の値となった。これらの値はCo(II)イオンのスピンS=3/2を考慮したものよりも大きい値となっており、軌道角運動量の残存が示唆された。この時のg値はそれぞれ2.273および2.306であった。温度を低下させていくと交流磁化率測定を行ったところ、テトラメチルアンモニウム塩は4 K付近からχMT値の低下が見られ、1.8 Kにおいて2.400 cm3 mol-1 Kとなったのに対し、テトラブチルアンモニウム塩では15 K付近から値の低下が見られ、1.8 Kで1.871 cm3 mol-1 Kとなった。これらの違いはCoイオンの磁気異方性に起因していると考えられる。
交流磁化率測定を行ったところ、テトラブチルアンモニウム塩でのみ、緩和の遅れを示す虚数部の立ち上がりが高周波側に観測された。このピークは外部静磁場1000 Oe, 1.8および2.0 Kで観測された。この結果はテトラメチルアンモニウム塩と比べ、テトラブチルアンモニウム塩の磁気異方性が大きいことに起因していると考えられる、静磁化率の結果と矛盾のない結果が得られた。
4.その他・特記事項(Others)
1. M. Murugesu et al., Chem. Sci., 2016, 7, 2470.
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし
6.関連特許(Patent)
なし

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