利用報告書
課題番号:S-16-MS-1075
利用形態:機器利用
利用課題名:Lindqvist構造を基本骨格に持つ [VW5O19]3- を触媒に用いた酸化反応系の開発
Program Title:Olefin epoxidation with hydrogen peroxide catalyzed by Lindqvist type [VW5O19]3-.
利用者名:石川英里1), 戸川祐太2)
Username:Eri ISHIKAWA1), Yuta Togawa2)
所属名:1)中部大学 工学部応用化学科, 2)中部大学大学院 工学研究科応用化学専攻
Affiliation:1)Deptment of Applied Chemistry, College of Engineering, Chubu University, 2)Department of Applied Chemistry, Graduate school of Engineering, Chubu University
1.概要(Summary)
これまでに石川らは過酸化水素を酸化剤に用いたオレフィンの酸化反応に対してLindqvist型構造を持ち、骨格の一部をバナジウムに置換した [VW5O19]3- が高い触媒活性を示すことを見出してきた。51V-NMRや183W-NMRの測定によって [VW5O19]3- のバナジウムサイトがかなり強い塩基性を持つことが明らかとなり、ESI-MS測定の結果と合わせて触媒反応中、[VW5O19]3- にはバナジウムサイトを中心にして複数個のペルオキソ体が形成され、このサイトにオレフィンを引きつけてオレフィン酸化反応を促進させていると考察した。
2.実験(Experimental)
600 MHz核磁気共鳴装置(JEOL JNM-ECA600)を用いて51V-、183W-NMRを測定した。51V-NMR測定では一次標準試料としてVOCl3を、二次標準試料としてNaVO3水溶液を用いた。183W-NMR測定の標準試料にはNa2WO4水溶液を用いた。いずれの測定においても標準試薬は外部標準として用いた。
3.結果と考察(Results and Discussion)
アセトニトリルに溶解させた(TBA)3[VW5O19]の51V NMR測定では -509.7 ppmにシグナル(1/2 = 4 Hz)が観測され、このシグナルはJ = 5.2 Hzで3本に分裂した。プロトンデカップリング測定では分裂が消滅することから [VW5O19]3- のバナジウムサイトには、溶媒のアセトニリルに少量含まれた水分由来のプロトンが配位したと考えられる。183W NMR測定ではタングステンサイトにプロトネーションは確認されず、[VW5O19]3- においてバナジウムサイトが特に塩基性が高く、プロトンを引き寄せやすいことが示された。ESI-MS測定によって触媒反応中 [VW5O19]3- は基本骨格を保持したまま1~3個のペルオキソ体が形成されることが明らかにされているが、51V NMR測定の結果と合わせてペルオキソ体はバナジウムサイトを中心に形成され、このサイトが触媒活性サイトとしてオレフィンを引きつけて酸化反応が促進されていると考えた。この触媒を用いた過酸化水素によるシクロオクテンのエポキシ化反応に関して、シクロオクテンの初期の減少速度を基に触媒、シクロオクテンおよび過酸化水素の濃度に対する反応次数を求めたところ、それぞれ1.1次、0.9次、-0.45次と得られた。過酸化水素濃度に対する依存性が小さいことから、シクロオクテンのエポキシ化反応において [VW5O19]3- にペルオキソ体を形成し、これを経由してシクロオクテンに酸素原子が移動するプロセスはスムーズに進行して律速反応になっていないと考えた。
4.その他・特記事項(Others)
NMR測定に際してご教示いただいた分子科学研究所機器センターの牧田誠二氏と長尾春代氏に感謝致します。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 木原大輔、石川英里, 第47回中部化学関係学協会支部連合秋季大会、平成28年11月6日
(2) 戸川祐太、石川英里, 第47回中部化学関係学協会支部連合秋季大会、平成28年11月6日
(3) 横井伸圭、石川英里, 第47回中部化学関係学協会支部連合秋季大会、平成28年11月6日
(4) 戸川祐太、石川英里、日本化学会第96春季年会、平成29年3月16日
(5) E. Ishikawa, AnalytiX-2017, March 24, 2017.
6.関連特許(Patent)
なし







