利用報告書
課題番号 :S-20-NI-0010
利用形態 :技術代行
利用課題名(日本語) :Ni2+とFe3+とからなる層状複水酸化物の 57Fe メスバウアー分光測定
Program Title (English) :57Fe Mössbauer Spectroscopic Measurement of Layered Double Hydroxide with Ni2+ and Fe3+
利用者名(日本語) :笹井亮
Username (English) :R. Sasai
所属名(日本語) :島根大学大学院自然科学研究科
Affiliation (English) :Graduate School of Natural Science and Technology, Shimane University
図1.57Feメスバウアースペクトル.(a) [Ni0.75Fe0.25(OH)2](CO3)0.5,(b) [Ni0.75Fe0.25(OH)2](CO3)0.5(原料濃度2倍). |
1.概要(Summary )
陰イオン交換性層状無機化合物の一つとして知られる層状複水酸化物(LDH)は,2価と3価の金属の複合水酸化物である.私の研究室では3価金属をFeとしたLDHとしてNi-Fe系LDHを合成し,水中のヒ素除去への利用を考えている.本利用課題では,いくつかの合成条件で得たNi-Fe系LDH中のFeの化学状態(価数や化合物)を明らかにすることを目的にメスバウアー測定を行った.その結果,試料中に局所環境の異なる2種類以上のFe3+が存在する可能性が示唆された.一方で,合成条件による違いは観測されなかった.
2.実験(Experimental)
Ni(NO3)2とFe(NO3)3の混合水溶液にトリエチルアミンを添加した反応溶液を還流法で72時間処理して測定用試料を得た.この時Ni(NO3)2とFe(NO3)3のモル比を一定にし,濃度を2倍にした場合も同様に行った.Fe(OH)3はNi(NO3)2非存在下で同様に処理して得た.この作製したFe(OH)3および[Ni0.75Fe0.25(OH)2](CO3)0.5をシリコーン製真空グリースと練り合わせて高純度Al箔(15×15 mm)の間に挟み,透過法を用いてメスバウアー分光装置を用い,室温で57Feメスバウアースペクトルを測定した.得られたスペクトルの解析は,非磁性四極子分裂Doublet 1組(吸収ピークはローレンツ曲線,強度比は1:1に固定,結晶配向はランダムと仮定)による最小自乗フィッティングにて行った.
3.結果と考察(Results and Discussion)
図1に試料のメスバウアースペクトルを示す.測定に供したすべての試料のメスバウアースペクトルは,非磁性四極子分裂Doubletのみで解析でき,a-FeOOHなどの室温磁気秩序相に由来するピークは観測されなかった.これは,今回合成したNi-Fe系LDH中に目的物以外のFeを含む不純物は含まれないことを示す結果である.また,原料濃度によらず得られるNi-Fe系LDHに違いはないことが明らかとなった.一方で,強度比1:1のローレンツ曲線2本1組で,メスバウアースペクトルを完全に再現することができなかった.この結果は,Ni-Fe系LDH中に存在するFeがすべて同一の局所環境に存在するのではなく,少なくとも2種類以上の局所環境が共存している可能性を示唆するものである.局所環境としては,金属水酸化物8面体中で水酸化物イオンが6配位したFe3+と,LDH層の端面に存在し水酸化物イオンの配位状態の異なるFe3+が考えられる.今後は,この局所環境の異なるFe3+の化学状態の詳細を探るとともに,この物質の基本物性である陰イオン交換特性とのかかわりを明らかにしていく.
4.その他・特記事項(Others)
本研究の一部は,科研費基盤研究(B)(課題番号:22350093,17H03129)の支援の下で行われたものである.
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
- Yoshisue, T. Fujimura, and R. Sasai, 4th Asian Clay Conference (Fully-Online Conference), 2020年6月8,9日.
- 吉末智博,藤村卓也,笹井亮,2020年日本化学会中国四国支部島根大会(ONLINE),2020年11月28,29日.
6.関連特許(Patent)
なし