利用報告書

Si添加DLC膜の開発
瀧 真
株式会社オンワード技研

課題番号 :S-20-JI-0003
利用形態 :技術代行支援
利用課題名(日本語) :Si添加DLC膜の開発
Program Title (English) :Development of Si-DLC films
利用者名(日本語) :瀧 真
Username (English) :Makoto Taki
所属名(日本語) :株式会社オンワード技研
Affiliation (English) :Onward Ceramic Coating Co.,Ltd

1.概要(Summary )
ハードコーティングの一種であるDiamond Like Carbob(DLC)膜は、様々な金型や工具、各種部品の低摩擦・耐摩耗性膜として工業的に応用が広がっている。弊社でのDLC成膜の受託加工も順調に推移しているが、実際には幾つかの問題があり、その1つが耐熱性である。DLCはその性質上~600℃程度でグラファイト化してしまい、膜が極端に軟化してしまう。
弊社ではこの課題に対し、水素フリーDLC (tetrahedral amorphous Carbon :ta-C)と呼ばれるDLCに僅かにケイ素を添加する (ta-C:Si) ことで、耐熱性を向上させる研究に取り組んでいる。
今回は、ta-C:Si膜と硬度が異なるta-C膜のイオン化ポテンシャルを測定することでta-C:Si膜の硬さを推定した。この結果、ta-C:Si膜は十分な硬度が得られていない可能性が高いことが分かったので、この原因を解明するために膜の断面観察を行った。

2.実験(Experimental)
T型フィルタードアーク装置を用いて、ta-Cとta-C:Si膜を超硬試験片 (tungaroy TH10:WC-Co) 上に成膜した。作成した試験片をJAISTの光電子分光装置((株) 理研計器AC-2) を用いて、膜のイオン化ポテンシャル(IP)の評価を行った。続いて、試験片をJAISTの高性能集束イオンビーム装置 ((株)日立ハイテクサイエンス製SMI3050) に導入し、膜の断面を研磨した。その後、研磨部を石川県工業試験場所有の電子顕微鏡SEMで観察した。

3.結果と考察(Results and Discussion)
各試料の光電子収量スペクトルを図1.に、解析結果を表1に示す。

試料 硬さ(GPa) IP (eV)
ta-C:Si – 5.32
ta-C:Soft 54.7 5.41
ta-C:Middle 68.8 5.42
ta-C:Hard 72.2 5.44
Graphite(参考) – 4.61
Diamond(参考) – 5.47

これより、一連のta-C膜がダイヤモンドに近いIPを持つことが解る。ta-C膜は膜中の電子の波動関数のsp3の比率が高い程、高硬度となりバンドギャップも広がることが解っている。このバンドギャップの増加に対応してIPも増加する。
創成したta-C;Si膜は評価した中では最も低いIPとなっており、ta-C膜と比べてsp3比が低い(低硬度)ことが示唆される。成膜条件はta-C:Hradと共通となっているにも関わらず、十分なsp3比が得られていなことから、この原因を調査するため、急遽追加でta-C:Si膜の断面観察を行った。

図2にはSEMで10万倍の膜断面観察を行った結果を示す。これより膜の途中から層状の構造が存在していることが分かる。成膜条件は最初から最後まで同一なので、層状の構造は意図的なものではない。実際の成膜時の状況を合わせて考えると、成膜中に放電が途切れた状態、もしくはその後の再着火に関連して層状の構造が表れている可能性が高いと考えられる。例えば再着火に伴うターゲットからの脱ガス等の影響が示唆される。
ta-C膜の成膜では、真空度の悪化に伴う不純物の混入は、膜硬度を低下させることが解っており、ta-C:Si膜のsp3比低下の一因となっていることが示唆される。
より高硬度な膜(高sp3比)を得るには、安定した放電が可能となるか、再着火時の脱ガスを抑制したターゲットが必要となることが分かった。
本研究により、これまでの物性評価では知りえなかった、放電と膜質に関する重要な知見が得られた。
今後の商品化に向け、新しいターゲットの開発を鋭意実施していく予定である。

4.その他・特記事項(Others)
今回の研究で多くの方に多大なご協力、助言を頂きました。
東嶺孝一(JAISTマテリアルテクノロジーセンター)
宇野宗則(JAISTマテリアルテクノロジーセンター)
村上達也(JAISTマテリアルテクノロジーセンター)
木村一郎(JAISTマテリアルテクノロジーセンター)
伊藤真弓(JAIST産学連携推進センター)
小林祥子(JAIST産学連携推進センター)
の各氏にはコロナ禍で思うように実験が進められない中でも、専門的な立場から柔軟にご協力頂き、何とか研究を進めることが出来ました。深く感謝致します。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし

6.関連特許(Patent)
(1) 滝川浩史、瀧真、長谷川祐史、神谷雅男、加藤裕史、“DLC膜及びDLC被覆膜物品”、特願2016-540727、平成28年2月11日

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