利用報告書
課題番号 :S-18-JI-0045
利用形態 :技術代行支援
利用課題名(日本語) :Si添加DLC膜用ターゲットの開発
Program Title (English) :Development of target for Si-DLC films
利用者名(日本語) :瀧 真
Username (English) :Makoto Taki
所属名(日本語) :株式会社オンワード技研
Affiliation (English) :Onward Ceramic Coating Co.,Ltd
1.概要(Summary )
ハードコーティングの一種であるDiamond Like Carbob(DLC)膜は、様々な金型や工具、各種部品の低摩擦・耐摩耗性膜として工業的に応用が広がっている。弊社でのDLC成膜の受託加工も順調に推移しているが、実際には幾つかの問題があり、その1つが耐熱性である。DLCはその性質上~600℃程度でグラファイト化してしまい、膜が極端に軟化してしまう。
弊社ではこの課題に対し、水素フリーDLC (tetrahedral amorphous Carbon :ta-C)と呼ばれるDLCに僅かにケイ素を添加する(ta-C:Si)ことで、耐熱性を向上させる研究に取り組んでいる。
今回はta-C:Si膜の光電子分光測定し、膜の組成分析と構造解析を行った。
2.実験(Experimental)
T型フィルタードアーク装置を用いて、ta-Cとta-C:Si膜を超硬(tungaroy TH10:WC-Co)上に成膜した。作成した試験片をJAISTのX線光電子分光装置(島津製作所 Kratos AXIS-ULTRA DLD)を用いて、膜の組成比と炭素の電子状態の評価を行った。
3.結果と考察(Results and Discussion)
各試料のXPSのC1sとSi2pのスペクトルを図1.a,bに、解析結果を表1に示す。
C1s peak position (eV) sp3 比(atm.%)
ta-C 285.3 90.53
No.1 ta-C:Si 284.923 –
No.2 ta-C:Si 284.904 –
これより、ta-C膜が高いsp3比を有することが、改めて確認できた。ta-Cはダイヤモンドに準ずる高い硬度を有することが示唆される。これに対しta-C:Si膜のC1sのピーク位置はグラファイト側へシフトしていることが示された。これは、膜中の炭素の混成軌道そのものがグラファイト化していると考えられ、膜としては低硬度化していることが示唆される。
今後は成膜条件を見直して、より高硬度、高耐熱な膜の成膜を目指す予定。
4.その他・特記事項(Others)
今回、光電子分光の実際の測定において北陸先端科学技術大学院大学の村上達也博士に大変お世話になりました。この場を借りて感謝申し上げます。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし
6.関連特許(Patent)
(1) 滝川浩史、瀧真、長谷川祐史、神谷雅男、加藤裕史、“DLC膜及びDLC被覆膜物品”、特願2016-540727、平成28年2月11日