利用報告書

SiCを原料とする炭素材料の開発
安部武志1), 小久見善八2)(1) 京都大学大学院地球環境学堂, 2) 同産官学連携本部)

課題番号 :S-19-SH-0021
利用形態 :共同研究型支援
利用課題名(日本語) :SiCを原料とする炭素材料の開発
Program Title (English) :Development of novel carbon materials from SiC
利用者名(日本語) :安部武志1), 小久見善八2)
Username (English) :T. Abe1), Z. Ogumi2)
所属名(日本語) :1) 京都大学大学院地球環境学堂, 2) 同産官学連携本部
Affiliation (English) :1) Graduate School of Global Environmental Study、Kyoto University,
2) Office of Society & Academia Cooperation for Innovation、Kyoto Univerity

1.概要(Summary )
従来の炭素材料と言えば原料有機化合物を加熱分解して最後に残る炭素の形態を見て用途を探索することが大勢であったが、リチウムイオン電池負極材という特定用途に向けた炭素材料の特殊製法を模索する。 研削材として実績のある炭化ケイ素を製造する際の副反応(高温熱分解)を応用して多孔質体の中に導電回路を保ちながらケイ素を微分散させる策を狙う。

2.実験(Experimental)
リチウムイオン電池の負極活物質であるリチウムの担持材として炭素または黒鉛はすでに実績があるが、負極のさらなる性能向上が求められている。黒鉛を凌駕する材料としてケイ素(Si)が注目されているが、その課題は多い。例えば、充放電に伴う体積変化が大きいために微粉化がおこると同時に合剤電極が破壊される、集電体から脱落して導通がとれなくなり失活するとなどが代表的な課題である。そのため、Siだけでの実用化は困難とされ、他の導電性材料との複合化が必要とされている。また、電極とするためにはイオン導電と電気伝導の両方を兼ね備えることが求められる。そのためには、適度に電解質が出入りする空隙があり、微細化されたSiが導電体と複合化されて電気的につながった構造を保つ事が求められる。どこで、炭化ケイ素から電気導電性を担う炭素と活物質となるケイ素が相互にこう分散して、且つ、電解質が浸透してイオン伝導性を担保する合剤電極とする可能性を検討する、そのため、粒子サイズの異なる炭化ケイ素から適度にケイ素を脱離させて電解液のための空間を作り、炭素の網目構造の中にケイ素が残留する構造を目指した。そのための熱処理条件、温度、雰囲気など、を変えて熱処理した、生成物をSEM, Ramanなどで分析した。

3.結果と考察(Results and Discussion)
装置上の制約があり、熱処理雰囲気は大気圧下アルゴン雰囲気に限られたが、得られた成果から次のような大きな傾向が確認できた。

図1熱処理前後のSEM観察
(a)粒子径1~2μSiCの熱処理前、(b)同上2,300℃20min処理後、(c)粒子径100μSiC熱処理前、(d)同上2800℃30min処理後

図2サイズの異なるSiC粒子の熱処理
図1により、粒子サイズにより熱応答性が大きく異なり、微細粒子はより低温で溶融焼結するが大きい粒子では表面から変質し内部に向けてSiが抜けている。
図2のように、サイズの異なる粒子の同一条件熱処理後の表面ラマン分析より、表面付近から想定したSiCの分解が進行し、Siが抜けていくことが確認できた。
Siが抜けることにより粒子は電気導電性を示す。
過度に熱処理するとSiCが揮散するために空隙多いスカスカの黒鉛のみとなる。
以上の結果から、熱処理温度を変えることによって、適切な空隙率を持った多孔性炭素材料を作成できると考えられる。
熱処理条件の最適化にはさらなる詳細な検討が必要となるが、絶縁物に近い炭化ケイ素に導電性の付与は確認できた。一方で、Siを希望の割合で残すための条件などについては未着手である。雰囲気調整や加熱温度設計、時間管理などを検討することによって可能となると期待される。また、残留するケイ素種の電気化学的活性についても検討が必要である。

4.その他・特記事項(Others)
実験に当たり、森本信吾准教授に御指導と御助力をいただいた。多大のご協力に対して深甚の感謝をする。 また、同准教授には実験の期間中やその前後の機会に、SiCの熱処理時反応をはじめとして、炭素材料の現状や炭素製造、炭素の諸特性とそれらの今後の発展などについて、高い視野に立った、多方面に亘る高度なDiscussionをいただいた。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし

6.関連特許(Patent)
なし

©2024 Molecule and Material Synthesis Platform All rights reserved.