利用報告書
課題番号 :S-17-MS-2026
利用形態 :機器利用
Program Title (English) : STXM observation of dissolution distribution of ferrous or ferric ion in magnetite
利用者名(日本語) :田村 知也1), 興野 純2) , 菅谷 崚3)
Username (English) :
所属名(日本語) :1) 筑波大学大学院生命環境科学研究科, 2) 筑波大学生命環境系, 3)筑波大学地球学類
Affiliation (English) :
1.概要(Summary )
海水とカンラン岩や蛇紋岩の反応によって形成される熱水噴出孔からは以下の(1)式によって水素分子(H2)に富んだ熱水が噴出され,化学合成生物から成る生態系を支えている.
2H2O + 2e- → H2 + 2OH- (1)
この(1)式に対する電子供与体として, 以下の(2)式のように, カンラン岩や蛇紋岩に含まれるFe2+を含む鉱物が考えられている.
Fe2+-bearing mineral → Fe3+-bearing mineral+e- (2)
しかしながら, (1)式のH2発生反応に必要な(2)式の反応の具体的なプロセスについては明らかになっていない. 本実験では, magnetite(α-Fe3O4)の熱水反応実験と, 実験後の試料の走査型透過X線顕微鏡(STXM)分析によって, magnetiteによるH2発生メカニズムを解明することを目的とした.
2.実験(Experimental)
Magnetiteの合成は水熱合成法で行い, 粒径50-100 µm の単結晶magnetiteを得た. この単結晶magnetiteと超純水をテフロン容器に入れ, 窒素雰囲気下で封入後, 電気炉で100°C, 1ヶ月間加熱することで, 熱水反応実験を行った. その後, 試料をFIB装置に供試し, 厚さ100 nmの薄膜断面試料を作成した後, 走査型透過X線顕微鏡(STXM)による分析を行った. FIBは物質材料研究機構(NIMS)の装置(JEOL: JIB-4000, JEM-9320FIB), STXMは自然科学研究機構分子科学研究所の極端紫外光研究施設(UVSOR)ビームライン4Uの装置(Bruker AXS, UVSOR-Ⅲ)をそれぞれ用いた.
3.結果と考察(Results and Discussion)
熱水反応実験による(2)式の反応の進行について解析するため, Bourdelle et al. (2013)を参考に, STXM分析より得られたFe L-edge XANESスペクトル(700-730 eV)からFe3+/ΣFe比の定量を試みた. その結果, 本研究で熱水反応実験に用いたmagnetiteのFe3+/ΣFe比は,実験前の段階で最大74%であったのに対し, 熱水反応後では(111)面の表面から深さ500nmまでの部分で約84%と増大した.
これらの結果は, 以下のようなプロセスを示唆する. まず, magnetiteの(111)面の縁や(100)面の不安定な部分から溶解が起こり,Fe2+とFe3+が溶液中に放出される.これらのイオンは(111)面に吸着し,特にFe2+は電子をmagnetiteに供給してFe3+となり,吸着イオンはhematite(α-Fe2O3)やgoethite(α-FeOOH)として(111)面を覆っていく.Magnetite中にもともと存在していた電子と吸着イオンによって供給された電子はFeO6八面体席中を移動し,表面に吸着しているH2Oが電子を受容し還元される.これが本実験におけるmagnetiteが関連したH2が発生するメカニズムであると考えられる.
4.その他・特記事項(Others)
支援者:大東 琢治,稲垣 裕一
科研費:project no. 26400511
謝辞
本研究は, 文部科学省委託事業ナノテクノロジープラットフォーム課題として分子科学研究所ナノプラットフォームの支援を受けて実施されました. また, 本研究の一部はJSPS科研費 26400511の助成を受けたものです. 本研究を行うにあたり, STXMの操作に関する技術指導をして頂いた自然科学研究機構分子科学研究所の極端紫外光研究施設(UVSOR)の大東琢治氏および稲垣 裕一氏には深く感謝申し上げます.
参考文献
Bourdelle, F., Benzerara, K., Beyssac, O., Cosmidis, J., Neuville, D.R., Brown Jr., G.E. and Paineau, E. (2013) Quantification of the ferric/ferrous iron ratio in silicates by scanning transmission X-ray microscopy at the Fe L2,3 edges. Contributions to Mineralogy and Petrology, 166
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし。
6.関連特許(Patent)
なし。