利用報告書
課題番号 :S-20-MS-1038
利用形態 :施設利用
利用課題名(日本語) :Tsai型正二十面体準結晶相の熱力学的安定相と電子物性
Program Title (English) :Thermodynamically stable phases of Tsai-type icosahedral quasicrystals and
their physical properties
利用者名(日本語) :柏本史郎1), 山崎隆介2)
Username (English) :S. Kashimoto1), R. Yamazaki2)
所属名(日本語) :1) 北海道大学大学院工学研究院, 2) 北海道大学工学部
Affiliation (English) :1) Faculty of Engineering, Hokkaido University,
2) School of Engineering, Hokkaido University
1.概要(Summary )
これまで当該施設利用において、希土類元素(Rare-earth element = RE)を含むTsai型正二十面体準結晶の物性について明らかにしてきた。本年度は引き続き、Zn-Ag-Sc-RE合金系においてより高濃度のREを含む準結晶相の形成条件と、得られた準結晶および関連物質である近似結晶相の低温での磁気秩序形成について実験的に調べた。
2.実験(Experimental)
・利用した主な装置:SQUID型磁束計(Quantum Design社、MPMS-7)、粉末X線回折装置 (Rigaku社製 RINT UltimaIII)、
・実験方法:SQUID型磁束計を用いて最大磁場70 kOeの磁化曲線と磁化率の温度依存性を温度1.8〜256 Kで測定した。X線回折はCu Kα線を用いて集中法により2θ−θ scanで測定し、作製試料の相同定を行った。
3.結果と考察(Results and Discussion)
・結果:これまでZn-Ag-Sc準結晶のScをREに置換した場合、準結晶単相試料が得られるのはREが高々4at%までであったが、Tsai型準結晶の局所構造であるTsai型クラスタ形成の幾何学的条件からはRE濃度が10at%を超えたあたりまでの同型置換が期待できる。実際、試料の合成方法をそれまでの液相からの徐冷および焼鈍から、液相から直接水焼き入れ処理に変えることでZn74.5Ag9.5Sc8Er8合金でも準結晶がほぼ単相得られることが前年度の終わりに分かった。そこで今回はZn74.5Ag9.5Sc8Tm8、Zn74.5Ag9.5Sc6Tm10、Zn74.5Ag9.5Sc6Er10、Zn74.5Ag9.5Sc6Ho10の組成で水焼き入れ試料を作製した。粉末X線回折測定からZn74.5Ag9.5Sc8Tm8で準結晶が単相で形成することが分かった。それ以外のRE10at%の試料はいずれも近似結晶とGd11Cd58-typeのhexagonal相と思われる不純物相の2相が大部分の混相試料であった。Tm4at%のZn-Ag-Sc-Tm準結晶についてはすでに参考文献[1]で2 K付近まででは磁気秩序がみられず、その一方でREの結晶場効果による低温比熱異常が出現することを報告している。そこで新しく得られたZn74.5Ag9.5Sc8Tm8準結晶に対して磁化測定を行った。磁化率の温度依存性は室温から15 K付近までの広い温度範囲でCurie-Weiss則にしたがい、fittingから得られたCurie定数から見積もったTmのボーア磁子数は7.53と理論値とほぼ一致した。Curie温度は-2.5 Kと小さく、10 K以下では僅かにCurie-Weiss則から僅かに逸れていくが、スピングラスを含む長距離磁気秩序の出現には至っていない。
・考察:RE10at%試料では予想に反して準結晶が得られなかったので、試料作製方法や昨年度予想した合金状態図の再検討が今後必要と思われる。一方Zn74.5Ag9.5Sc8Tm8では、得られた格子定数とボーア磁子数から仕込み組成どおりにTm元素の同型置換ができていると考えられる。現在、得られた試料に追加焼鈍を行い準結晶相の安定性を引き続き調べている。また物性に関してはより低温領域での磁化測定で磁気秩序の有無の確認と、参考文献[1]で報告されている準結晶におけるRE4f電子による結晶場効果とショットキー比熱の検証を行う予定である。
4.その他・特記事項(Others)
参考文献:[1]S.Jazbec, S.Kashimoto, et. al.,Phys. Rev. B,93(2016)054208-1-14.
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 山崎隆介, 柏本史郎, 第56回応用物理学会北海道支部学術講演会, 令和3年1月9日.
6.関連特許(Patent) なし