利用報告書

X線光電子分光方による熱処理を行ったCNTの表面分析
山崎悟志1)
1) 先端素材高速開発技術研究組合

課題番号 :S-20-JI-0011
利用形態 :技術代行支援
利用課題名(日本語) :X線光電子分光方による熱処理を行ったCNTの表面分析
Program Title (English) :Surface analysis of heat-treated CNT by X-ray photoelectron spectroscopy
利用者名(日本語) :山崎悟志1)
Username (English) :S. Yamazaki1)
所属名(日本語) :1) 先端素材高速開発技術研究組合
Affiliation (English) :1) ADMAT

1. 概要(Summary )
近年、カーボンナノチューブ(CNT)で構成された線材は、炭素繊維などの高強度繊維や金属導体に匹敵する機械特性および導電性を備えている1)。CNT線材における導電性を司るCNT自体の構造要因は複数ある。その一方で、CNT表面に付着している元素もしくは官能基もCNT自体の導電性低下を誘発する可能もあり、これらを評価することは、導電体としてのCNT線材を開発するために重要である。
今回、市販品の多層CNTに対して表面に付着する元素や官能基を取り除くために熱処理を施した試料を準備し、X線光電子分光法にてCNT表面の元素分析を行った。加えて、検出された元素に関してその化学状態を評価した。

2.実験(Experimental)
利用装置:X線光電子分光装置(島津クレートス社製 AXIS-ULTRA DLD)
測定試料は浮遊触媒法で合成された直径が5nm以下の多層CNTを用いた。多層CNTをイソプロピルアルコールに分散させた後、ろ過することでφ30mm、厚さ0.05mmのバッキーペーパーを作製した。試料は加工成形後、高温で熱処理を行った。XPSスペクトルの測定では、X線源を単色化X線(Al Kα)として、得られたXPSスペクトルは、炭素のC-C結合のピークが284.6eVになるように補正をかけた。

3.結果と考察(Results and Discussion)
図1に熱処理前後のXPSスペクトルを示す。CNTを構成する炭素の1Sピークが確認される一方で、熱処理前のスペクトルには矢印で示した530eVあたりに微弱なピークが確認され、それは酸素由来のピークと考えられる。その一方で熱処理後のスペクトルには酸素由来のピークは確認できなかった。更にナロースキャン分析によりその酸素の化学状態を評価した(図2)。酸素の1Sピークのエネルギー位置からシリサイド、シリコーンカーボネート由来の酸素と推測している。因みに熱処理後では図1の結果と同様に酸素由来のピークは確認されなかった。
今回、熱処理により上記の物質群を取り除けたことをXPSスペクトルから確認できた。

4.その他・特記事項(Others)
1) Lauren W. Taylor et al., Carbon. 171, 689-694(2021).
支援者:木村 一郎
この成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務(JPNP16010)の結果得られたものです。
北陸先端科学技術大学院大学の鈴木様の測定および解析には深く感謝申し上げます。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)

6.関連特許(Patent)

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