利用報告書

X線小角散乱法によるPDIファミリータンパク質とPDI酸化酵素との複合体の構造解析
金村進吾1), 松崎元紀2), 稲葉謙次2), 奥村正樹3),4)(1) 関西学院大学理工学部, 2) 東北大学多元物質科学研究所, 3) 東北大学学際科学フロンティア研究所, 4) 創発)

課題番号 :S-20-MS-0001
利用形態 :協力研究(ナノテクノロジープラットフォーム)
利用課題名(日本語) :X線小角散乱法によるPDIファミリータンパク質とPDI酸化酵素との複合体の構造解析
Program Title (English) :Structural analyses of protein disulfide isomerase (PDI) family members-PDI oxidase complex by Small-Angle X-ray Scattering
利用者名(日本語) :金村進吾1), 松崎元紀2), 稲葉謙次2), 奥村正樹3),4)
Username (English) :S. Kanemura 1), M. Matsusaki 2), K. Inaba 2) , M. Okumura 3),4)
所属名(日本語) :1) 関西学院大学理工学部, 2) 東北大学多元物質科学研究所, 3) 東北大学学際科学フロンティア研究所, 4) 創発
Affiliation (English) :1) Sch. of Sci. and Tech., Kwansei Gakuin University, 2) IMRAM, Tohoku University, 3) FRIS, Tohoku University, 4) FOREST, JST

1.概要(Summary )
全タンパク質の約1/3を占める分泌タンパク質や膜タンパク質は、細胞小器官の一つ小胞体において、ジスルフィド結合形成を伴った立体構造形成反応(酸化的フォールディング)を受け天然型構造を獲得した後、機能発現する。哺乳動物細胞の小胞体にはProtein Disulfide Isomerase (PDI)を始めとして、ERp46, P5, ERp57等、20種類以上ものPDIファミリー酵素が存在し、さらにそれら酵素を酸化するEro1といった数種の酸化酵素も相次いで見つかっている。本研究課題ではX線小角散乱法(SAXS)によって、これら酵素群の構造情報を取得し、各々の酸化的フォールディング経路における機構を解明する。

2.実験(Experimental)
SAXS実験は、分子研が所有するX線溶液散乱装置(iMSaxs)や放射光施設(SPring-8)を利用した。

3.結果と考察(Results and Discussion)
これまでに我々は、SAXS実験により、PDI、ERp46、Ero1の溶液構造を明らかにしてきた。PDIファミリーの1つP5は、3つのチオレドキシン様ドメイン(a0-a-b)によって構成されており、a0及びaドメインは、X線結晶構造解析によって構造決定されている。しかしながら、P5の全長構造における各ドメインの空間的配向は未だ明らかではなかった。そこで全長構造の決定を目的とし、P5のSAXS実験を行った。その結果、ゼロ濃度外挿後の酸化型、還元型P5の散乱プロファイルはほぼ一致しており、慣性半径はそれぞれ47.7 Å、47.9 Å、最大分子長は174 Å、180 Åと見積もられ、P5が有する活性部位の酸化・還元状態によって、大きな構造変化はなく、溶液中でa0ドメインを介した二量体を形成していることがわかった。このデータを基に、分子研・秋山氏と共同で全長P5の構造モデリングを進めた結果、P5の各ドメイン間は長いリンカーによって繋がれており、P5全長は大きなダイナミクスがあることが明らかとなった。さらに、P5の二量体化の意義について調べるために作製したP5の単量体変異体のSAXS測定を行った。その結果、期待通り単量体の分子量として算出され、慣性半径は38.5 Å、最大分子長は150 Åと見積もられた。これらの結果と生化学的データとを合わせ、P5は新規の構造モチーフによって二量体構造を持つこと、またその二量体の全体構造解明に成功した(1)。

4.その他・特記事項(Others)
X線小角散乱法によるP5の溶液構造のモデル構築は、分子研・秋山修志教授と行っており、ここに感謝申し上げます。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) M. Okumura, S. Kanemura, M. Matsusaki, M. Kinoshita, T. Saio, D. Ito, C. Hirayama, H. Kumeta, M. Watabe, Y. Amagai, Y.-H. Lee, S. Akiyama, and K. Inaba, Structure, in press
6.関連特許(Patent)
なし

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