利用報告書

ZnCr二金属酸化物/フライアッシュ光触媒複合体の開発
井上 拓海、 チティホン チャイチャム, 笹木 圭子
九州大学

課題番号 :S-20-KU-0001
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :ZnCr二金属酸化物/フライアッシュ光触媒複合体の開発
Program Title (English) :Synthesis of ZnCr-layered double oxide/ fly ash composites
利用者名(日本語) :井上 拓海、 チティホン チャイチャム, 笹木 圭子
Username (English) :Inoue Takumi, Chitiphon Chuaicham, Keiko Sasaki
所属名(日本語) :九州大学
Affiliation (English) :Kyushu University

1.概要(Summary )
火力発電所の産業廃棄物であるフライアッシュは中空球体粒子であり遷移金属酸化物を微量成分として含むことから、光触媒との複合化による高度利用が期待できる。本研究では、ZnCr二金属酸化物/フライアッシュ光触媒複合体を合成し、最適合成条件の複合体がどのような特性をもつか、それが光触媒反応メカニズムにどのような影響をもたらしているかを探求した。

2.実験(Experimental)
まずZnとCrのモル比がZn/Cr = 2になるよう、4.98 gのZn(NO3)2 6H2Oと3.30 gのCr(NO3)3 9H2Oを混合することで、共沈法によりZnとCrの層状複水酸化物(Layered Double Hydroxide : LDH)を合成し、これを500℃で2時間焼成することにより、ZnとCrの層状複水酸化物(Layered Double Oxide : LDO)を得た。さらに、0.5 wt%のフライアッシュ共存化で焼成を行うことでZnCrLDOとフライアッシュの複合体ZnCrLDO/FAを合成した。使用したフライアッシュは3種類(YEM, PAN, DAT)であり、表1に示すようなFeとTiの含有量の違いをもとに選択した。

表1. フライアッシュのXRF結果(wt%)
Fe2O3 TiO2
YEM 6.56 2.26
PAN 3.56 2.22
DAT 3.10 0.65

本研究では、電子状態測定システム(AXIS-ULTRA, Shimadzu, Kyoto, Japan)を使用して、各サンプル表面のZn 2p, Cr2p, Fe 2p, C 1s, O 1s およびサーベイスキャンを行った。用いたサンプルは主触媒であるZnCr二金属酸化物(ZnCrLDO)、フライアッシュ3種(YEM, PAN, DAT)、複合体3種(ZnCrLDO/YEM, ZnCrLDO/PAN, ZnCrLDO/DAT)の計7種である。得られたスペクトルからサンプル表面元素の定性・定量分析を行った。
得られたXPSデータはCasa XPS ver2.3.23を用いて、Fe 2p以外の軌道は、Shirley法により、Fe 2pの軌道はTougaard 法によりバックグラウンドをひき、結合エネルギーは、装置由来の真空オイルによる汚染ビークの結合エネルギーEB[C 1s] = 284.6 eVを基準として補正した。
Zn/Crの元素間の表面モル比を求めるには、相対感度係数を含む以下の関係式を用いた。
█(N_Zn/N_Cr = S_Cr2p/S_Zn2p ×I_Zn2p/I_Cr2p #(式1) )
N:物質量(mol)
S:感度因子(SZn2p=5.589, SCr2p=2.427)
I:スペクトルピークの強度
 
それぞれの複合体の光触媒活性を調べるために、例として抗生物質ciprofloxacin(C17H18FN3O3, Funakoshi, Tokyo, Japan)を10 ppmとした水溶液に光触媒複合体をけんだくさせて、光源500W Xeランプ(OPM2-502XQ, Ushio, Tokyo, Japan)により可視光下で分解を試みた。

3.結果と考察(Results and Discussion)
まず、LDO/フライアッシュ複合体によるciprofloxacin分解速度は、フライアッシュを複合化しないLDOよりも速く、図1に示すように、ZnCrLDO/YEM > ZnCrLDO/PAN > ZnCrLDO/DATの順であった。これは複合化されたフライアッシュの成分が複合体の光触媒活性に影響を与えているため、フライアッシュ中のFeおよびTi成分の表面分析をXPSにより検討した。
図1. 3種のZnCrLDO/フライアッシュ複合体によるciprofloxacin分解経時変化(C0 = 10 ppm)

図2に複合体サンプルのZn 2p、Cr 2pスペクトルのナロースキャンを示す。この積算強度を、式1に代入し、表面モル比を求めたところ、主触媒であるZnCrLDOが1.58であったのに対し、ZnCrLDO/YEMは1.69と近い値を示したが、ZnCrLDO/PANは1.85とZnリッチであり、ZnCrLDO/DATは1.21とCrリッチであることが分かった。
さらに、複合体中でのFe 2pの強度は検出できないほど小さかったため、フライアッシュのみの酸化物型O 1sのXPSピーク強度を基準としてFe 2pの相対強度をとったところ、YEMフライアッシュが最も大きいことが判明した。(図3)これはXRFによるFeの含有量がYEMにおいて最大であったこととも整合していた。
抗生物質の分解試験から、最も光触媒活性の高いサンプルはZnCrLDO/YEMでは、LDOの合成時に、フライアッシュ表面のFe原子を起点としZnCrLDOの結晶成長が起こることにより、主触媒であるZnCrLDOとフライアッシュとの間に密着した接合ができ、光が照射されたときに、励起電子が異種材料の間を移動し、再結合を防いだため、光触媒活性が維持されたと考えることができる。
フライアッシュは主触媒であるZnCr層状複酸化物光触媒の単なる支持体としての役割だけでなく、光触媒反応における電子の移動に関与し、再結合を妨げる重要な効果があるといえる。

図2.光触媒複合体3種のZn 2pおよびCr 2pスペクトル

図3.フライアッシュ3種のO 1sおよびFe 2pスペクトル

4.その他・特記事項(Others) なし。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
井上 拓海、Chitiphon Chuaicham, 笹木 圭子、 資源・素材学会2021年度春季大会、令和3年3月10日

6.関連特許(Patent) なし。

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