利用者インタビュー

分子の配列が整った結晶を作製

―学生時代からデバイス応用を目指した有機半導体の薄膜の構造制御と機能評価について研究してきたそうですね。

学生のころは、有機半導体という言葉は今のようにメジャーではありませんでした。大学卒業後は化学会社に就職するなど研究とは離れていた時期もありましたが、15年くらい前から、また有機半導体の研究を進めています。現在、フタロシアニンのような有機半導体のナノスケールの構造を評価するとともに、有機半導体へのドーピング技術の確立を目指しており、光センサーや熱電変換素子などのデバイスに応用するのが目標となっています。

―薄膜の構造制御が大事と聞きます。

有機分子は構造に異方性がありますので、薄膜の構造制御は大切となります。3次元ロッドの構造を採用することで、同じ量の光が当たっても受光する表面積を増やすことができると考えています。また、分子がきれいに並んだ結晶ならば電気を運ぶキャリアが速く伝わりますので、3次元ロッドの結晶をできるだけ整った状態にしようと取り組んでいます。そして、分子によって結晶の作り方は異なります。私は真空中に分子を飛ばして基板に堆積させて薄膜にする「真空蒸着法」を実施しています。何も手立てを講じないと粒状になるだけですので、蒸着する条件を検討しています。ロッドになるには分子の配向が大きく関わっていると思っています。

ドーピングで電子状態を変える

―電子状態にも着目しました。

キャリアを速く動かすには、電子状態も重要です。有機半導体材料は、ドーピングすることで電子状態が変わります。つまり、性能が変わるわけです。例えば、導電性高分子は酸化状態によって導電率が変わります。電極などに使いたい場合は高伝導率ものが適しており、熱電変換材料ならば導電率は抑えなければなりません。ベストな値になるよう、ドーピングレベルを調整していますが、全てをコントロールするには時間が必要です。

 

奈良先端科学技術大学院大学で試料を作製

―ナノテクノロジープラットフォーム事業を利用してどうでしたか。

2015年から利用していますが、研究を進める上で必要な機器が使えるので助かっています。例えば、チオフェン系材料の成膜条件による電子状態の変化などで、イオン化ポテンシャル測定をするため、光電子分光装置を使いました。AC-2タイプは神戸大学でも使わせてもらえる装置がありますが、奈良先端科学技術大学院大学にはAC-3タイプがありますので、より広い測定範囲でのデータが得られました。

―奈良先端科学技術大学院大学で試料を作製したそうですね。

ドーピングレベルの実験でしたが、ドーピングしてすぐに測定しないと形質変化する素材でしたので、野々口斐之先生の協力を得て、2日間、実験室をお借りしてサンプルを作製しました。私が来る前に作業がスムーズにできるよう、学内で調整していただいたことは、サンプルを運べなかっただけに心強かったです。また、技術職員の方のレベルが高く、機器の知識も豊富ですので、自分たちの手法の欠点や試料の調整法、最新の情報などを得ることができました。

 

TEMとSEMが切り替わるSTEM

―ナノロッドの観察には、走査透過電子顕微鏡(STEM)を使いました。

そうですね。STEMの試料調整は難しく、全く見えなかったこともあります。ナノロッドを一本ずつ観察するため、うまく分散するよう心を砕きました。また、このSTEMの一番の特徴は、透過電子顕微鏡(TEM)と走査電子顕微鏡(SEM)が切り替わることです。視野を変えずに同じ試料のTEN像とSEM像が見られるのは大きなメリットです。ナノロッドの重なりや金属元素などの存在といった情報も手にできました。高額な機器を全ての大学がそろえることは難しいと思います。それぞれの大学が持っている機器を供用してもらえれば、必要な機器がなくて困っている研究者をサポートできます。今後もこの事業を続けてほしいですね。

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