利用者インタビュー

2つの金属中心間を電子が移動

―どんな研究に取り組まれていますか。

学生時代から現在に至るまで一貫して金属錯体を研究しており、主に酸化還元によって電子の数が変化する化合物を扱っています。金属錯体とは、金属原子または金属イオンを中心に、配位子と呼ばれる原子あるいは分子団が結合した化合物の総称です。

―どういった化合物があるのでしょうか。

混合原子価錯体という酸化数の異なる金属を含んだ化合物があります。この金属錯体は非常にユニークで、例えば、二価と三価の原子価が共存する場合、2つの金属中心間を電子が移動することで、金属中心の酸化数が、二価が三価、三価が二価といったようにそろって変換されます。つまり、電荷分布が時間に応じて変動するので、この電荷分布に情報を持たせることができます。

分子デバイスと近赤外の吸収色素

―いろんなことに応用できそうですね。

応用の方向性は2つあります。1つは分子デバイスです。次世代デバイスとして注目を集めており、既存の微細加工プロセスとは異なった自己組織化などの低環境・低コストプロセスによるデバイス作製が可能です。このことから分子デバイスは有力なグリーンデバイスだと認識されています。2つ目は近赤外の吸収色素への利用です。ご存じのように、電子は熱で移動しますが、光によっても移動します。混合原子価錯体の化合物は、近赤外の光を吸収する特性があり、電気刺激によって近赤外光を吸収したり、吸収しなかったりします。この現象を電気―光スイッチングという通信に応用しようと考えています。また、通信だけでなく、セキュリティーやイメージングセンサーでの利用も進めています。

 

高分解能の測定データが必須

―なるほど。そういった研究を進める上で、ナノテクノロジープラットフォーム事業を活用されたそうですね。

はい。2017年から2019年までに3回、奈良先端科学技術大学院大学の協力を得ました。例えば、混合原子価錯体の化合物を同定するため、質量分析装置を使わせてもらいました。質量分析装置といってもさまざまな種類がありますが、奈良先端科学技術大学院大学の技術職員の方はプロフェッショナルですので、最も適した機器を選択してくれました。この同定で使用したのは、エレクトロスプレーとMALDI-TOF質量分析装置です。

―奈良先端科学技術大学院大学の技術職員は、どういった点が優れていましたか。

エレクトロスプレーはサンプルをイオン化して試料を作成します。この際、観察する資料と基準となる標準試料とを相対的に比較しますが、高い精度で分析を行うには、経験で培われた高い技術が必要です。私の研究では、小数点三桁程度までの高分解能の測定データがなければ論文作成もできませんので必須です。このような同定自体はどこの大学でもできますが、高分解能まで当たり前に対応していただけるのは、とてもありがたいですね。

 

アドバイスで定量分析を実施

―技術職員が測定する「技術代行」だけでなく、自分たちが直接測定する「機器利用」にも積極的ですね。

X線光電子分光装置の測定では、学生とともに奈良先端科学技術大学院大学を訪れています。錯体を基板に固定して有機トランジスタに応用しようという研究をはじめた際、表面分析の機器がなかったため、奈良先端科学技術大学院大学の機器を利用しました。技術職員の方の指導を受けながら、学生が操作することもあります。学生が研究者になったときには、この知識が役立つでしょう。

―奈良先端科学技術大学院大学の技術職員からアドバイスはありましたか。

実はX線光電子分光装置の測定には、定性分析と定量分析があります。定性分析は、試料にどんな成分が含まれているかを調べます。定量分析では、試料の成分とその成分の含有量が分かります。最初は定性分析だけにする予定でしたが、技術職員の方のアドバイスで定量分析も行いました。それによって、錯体を基板に乗せたときにどれだけの割合の化合物が乗り、基板がどこまで均一に覆われているのかが分かるようになりました。

―今後も利用したいと思いますか。

もちろん、利用したいと思います。私の大学で所有している機器は限られており、研究を進めるにはいろんな機器が必要です。このようなサポートをいつまでも続けてほしいです。

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