課題番号 ：S-15-JI-0002
利用形態 ：機器利用
利用課題名（日本語） ：光電子分光装置による配位高分子の物性評価
Program Title (English) ：Characterization of Physical Properties of Coordination Polymers with Photoelectron
Spectroscopy
利用者名（日本語） ：大久保貴志1),2)
Username (English) ：T. Okubo1),2)
所属名（日本語） ：1) 近畿大学理工学部, 2) JSTさきがけ
Affiliation (English) ：1) Faculty of Science and Engineering, Kinki University, 2) JST-PRESTO

１．概要（Summary ）
　金属イオンと架橋有機配位子からなる配位高分子はポリマー構造を有する無機・有機複合材料であり、そのそれぞれの成分のエネルギー準位を十分に考慮して設計することで、導電性や光吸収特性を制御できることから、今後新たな電子材料としての応用が期待できる。本研究ではこれまで臭化銅(I)とアクセプター性配位子を組み合わせることで、様々な半導体材料を合成しており、現在薄膜太陽電池の応用に向けての研究を行っている。これまでの研究で臭化銅(I)とヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリル（HAT-CN6）という平面性の配位子を組み合わせることで、電荷移動吸収に起因する可視領域での強い吸収と半導体特性を併せ持つ新たな光電子材料を合成し、その電子状態の解明と、薄膜太陽電池への応用を行ってきた。また、最近ではより高いLUMOレベルを有する配位子を利用した薄膜太陽電池の作製なども行っている。以上の研究において配位高分子のエネルギー準位決めることは重要であり、今回光電子分光装置を用いて配位高分子の電子状態を明らかにしたうえで、薄膜太陽電池への応用を行った。

２．実験（Experimental）
　今回、臭化銅(I)と様々なヘキサアザトリフェニレン誘導体を組み合わせた配位高分子を合成し、光電子分光装置（理研計器製UPS AC-2）および正・逆光電子分光装置（レックサイエンス PYS-200+IPES）を用いて配位高分子の電子状態を明らかにした。また得られた結果に基づき薄膜太陽電池の設計を行い、実際に薄膜太陽電池の作製と評価を行った。

３．結果と考察（Results and Discussion）
　臭化銅(I)とヘキサアザトリナフチレン誘導体（HATNA -Me；図１）を有機溶媒中で反応させ乾固することで目的の配位高分子[Cu9Br9(HATNA-Me)]nを合成した。得られた粉末サンプルをITO基板上に真空蒸着することで[Cu9Br9(HATNA-Me)]nの薄膜を作製し、光電子分光測定によりHOMOの準位（-5.2 eV）を決定した。UV-Vis-NIRスペクトルよりバンドギャップを見積もり、結果を用いてエネルギー準位（-4.3 eV）を決定した。以上に基づき図２の素子構造の薄膜太陽電池を作製した。また、この素子のエネルギー準位図を図３に示す。具体的には透明電極ITO基板にホール輸送材料PEDOT:PSSをスピンコートし、その基板上に[Cu9Br9(HATNA-Me)]nを蒸着した。更に電子輸送層としてC60、ホールブロッキング層としてBCP、電極としてAgをそれぞれ順次真空蒸着することで、目的の薄膜太陽電池を作製した。電流密度(J)−電圧(V)測定を行い、太陽電池素子を評価したところ短絡電流密度JSC = 1.289 mA/cm2、開放電圧VOC = 0.590 V、フィルファクターFF = 0.542、光電変換効率CPE = 0.412%であった。現在、上記の他にも様々なヘキサアザトリナフチレン誘導体を用いた配位高分子の合成と薄膜太陽電池の作製を行っている。今回作製した薄膜太陽電池は二層積層型太陽電池であるため高効率化は期待できないが、今後共蒸着によりバルクへテロ層を導入することで配位高分子を用いた薄膜太陽電池の高効率化を目指す。

４．その他・特記事項（Others）
　今回、光電子分光の実際の測定において北陸先端科学技術大学院大学の村上達也博士および木村一郎博士に大変お世話になりました。この場を借りて感謝申し上げます。

５．論文・学会発表（Publication/Presentation）
(1) 河野由樹, 谷嶋晃樹, 樋元健人, 中谷研二,大久保貴志, 前川雅彦, 黒田孝義, 第76回応用物理学会秋季学術講演会, 平成27年9月13日.
(2) 樋元健人, 河野由樹, 大久保貴志, 前川雅彦, 黒田孝義, 第76回応用物理学会秋季学術講演会, 平成27年9月13日.
(3) 中谷研二, 武田和樹, 大久保貴志, 前川雅彦, 黒田孝義, 第76回応用物理学会秋季学術講演会, 平成27年9月13日.
(4) 谷嶋晃樹, 河野由樹, 樋元健人, 中谷研二, 大久保貴志, 前川雅彦, 黒田孝義, 錯体化学会第65回討論会, 平成27年9月22日.
(5) T. Okubo, K. Tanishima, Y. Kono, K. Himoto, K. Nakatani, M. Maekawa, T. Kuroda-Sowa, The International Chemical Congress of Pacific Basin Societies 2015 (Pacifichem 2015), 平成27年12月18日.
(6) K. Himoto, T. Okubo, M. Maekawa, T. Kuroda-Sowa, The International Chemical Congress of Pacific Basin Societies 2015 (Pacifichem 2015), 平成27年12月18日.
(7) Y. Kono, K. Himoto, K. Nakatani, K. Tanishima, T. Okubo, M. Maekawa, T. Kuroda-Sowa, The International Chemical Congress of Pacific Basin Societies 2015 (Pacifichem 2015), 平成27年12月18日.
(8) K. Nakatani, T. Okubo, M. Maekawa, T. Kuroda-Sowa, The International Chemical Congress of Pacific Basin Societies 2015 (Pacifichem 2015), 平成27年12月18日.
(9) K. Tanishima, T. Okubo, M. Maekawa, T. Kuroda-Sowa, The International Chemical Congress of Pacific Basin Societies 2015 (Pacifichem 2015), 平成27年12月18日.
(10) 谷嶋晃樹、大久保貴志、前川雅彦、黒田孝義, 日本化学会第96春季年会, 平成28年3月24日.
(11) 樋元健人、中村加奈、大久保貴志、前川雅彦、黒田孝義, 日本化学会第96春季年会, 平成28年3月24日.
(12) 堀井俊也、大久保貴志、前川雅彦、黒田孝義, 日本化学会第96春季年会, 平成28年3月24日.
(13) 向井康智、大久保貴志、前川雅彦、黒田孝義, 日本化学会第96春季年会, 平成28年3月24日.
(14) 中村加奈、樋元健人、大久保貴志、前川雅彦、黒田孝義, 日本化学会第96春季年会, 平成28年3月24日.

６．関連特許（Patent）
なし