利用報告書

部位特異的変異を導入した好熱性紅色細菌由来光捕集1複合体の熱力学的解析
木村行宏1), 大友征宇2)
1) 神戸大学大学院農学研究科, 2) 茨城大学理学部

課題番号 :S-15-MS-1038a
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :部位特異的変異を導入した好熱性紅色細菌由来光捕集1複合体の熱力学的解析
Program Title (English) :Thermodynamic analysis of light-harvesting 1 reaction center complexes from site-directed mutants from thermophilic purple sulfur bacteria
利用者名(日本語) :木村行宏1), 大友征宇2)
Username (English) :Y. Kimura1), S. Otomo2)
所属名(日本語) :1) 神戸大学大学院農学研究科, 2) 茨城大学理学部
Affiliation (English) :1) Graduate School of Agricultural Science, Kobe University, 2) Faculty of Science, Ibaraki University

1.概要(Summary )
好熱性紅色細菌Tch. tepidum由来LH1複合体はCaを利用して高い耐熱性を獲得している。このCa結合部位を構成するアミノ酸配位子の中でも重要な役割を担っているβポリペプチドのC末端Leuに着目し、これをAlaに変異させた細胞からLH1-RCを精製し、等温滴定カロリメトリー(ITC)および示差走査熱量分析計(DSC)により、その金属結合特性及び耐熱性におけるLH1 βポリペプチドC末端Leuの役割を明らかにすることが本研究の目的である。一方、Tch. tepidumについては部位特異的遺伝子変異の手法が確立しておらず、現状報告例がない。従って、まず異種光合成タンパク質発現能を有する常温性の光合成細菌にTch. tepidum由来LH1をコードする遺伝子を組み込むことにより、LH1部分が好熱菌由来、RC部分が常温菌由来のキメラ型LH1-RCを作製、単離精製し、熱力学的手法により解析した。
2.実験(Experimental)
キメラ型細胞を室温、白熱灯照射下、10日程度培養した。得られた細胞を回収し、超音波処理により光合成膜小胞を単離した。各種界面活性剤を用いてLH1-RC複合体を可溶化し、陰イオン交換カラムクロマトグラフィーにより高純度のLH1-RCを精製した。等温滴定熱量分析装置MicroCal iTC200を用いて、キメラ型LH1-RCと金属イオンの相互作用を解析した。キメラ型LH1-RCタンパク質の耐熱性は示差走査熱量分析装置MicroCal VP-DSC及び紫外可視分光測定により評価した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
ITCを用いて得られたキメラ型LH1-RCと金属イオンの相互作用を解析するため、キメラ型LH1-RCから金属イオンを除去したところ、直ちに複合体が分解した。Tch. tepidum由来LH1-RCでは金属イオン除去後も複合体構造を保持していたことから、キメラ型では、LH1とRCの相互作用が弱くなっていることが示唆された。次に、Ca存在下、キメラ型LH1-RCにSrを滴定したが、ITC信号は観測されなかった。このことは、Caがキメラ型LH1-RCに強く結合しており、Srでは置換反応が起こりにくいということを示唆している。今後、さらに測定条件の検討を行う予定である。
さらにDSCを用いてキメラ型LH1-RCの熱分解温度測定を試みたが、試料の粘度が高く、安定したベースラインが得られなかった。従って、紫外可視分光により、キメラ型LH1-RCの熱分解に伴う色素の減衰を観測したところ、キメラ型LH1-RCは常温菌と好熱菌の中間の熱安定性を示した。このことから、好熱菌由来のLH1を導入することにより、常温菌の耐熱性を向上させることが可能であると考えられる。
4.その他・特記事項(Others)
本研究成果の一部は、文部科学省科学研究費補助金・基盤研究C(24570158)に関連したものである。試料調製および測定にご協力いただいた神戸大学大学院農学研究科の橋本佳奈子氏, 呂淑文氏に感謝の意を表する。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 木村行宏, 由良優季, 永麗, 大野隆, 大友征宇, 第23回光合成セミナー:反応中心と色素系の多様性, 平成27年7月11日
(2) Matsuzaki, M. Yura, Y., Ohno, T., Wang, Z.-Y., and Kimura, Y., The 53th Annual Meeting of the BSJ, 14th Sep., 2015
(3) Yura, Y., Kimura, Y., Hayashi, Y., Yong-Li, Onoda, M., Wang, Z.-Y., and Ohno, T., The 53th Annual Meeting of the BSJ, 13th Sep., 2015
(4) Kimura, Y., Yura, Y., Yong-Li, Wang, Z.-Y., and Ohno, T., The 53th Annual Meeting of the BSJ, 15th Sep., 2015
6.関連特許(Patent)
なし。

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