利用報告書

Co2FeAlナノ粒子,FeNi細線,(Eu, In)-YAIGの磁気的性質の解明
嶋 睦宏1)
1) 岐阜大学工学部

課題番号 :S-15-MS-1012
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :Co2FeAlナノ粒子,FeNi細線,(Eu, In)-YAIGの磁気的性質の解明
Program Title (English) :Magnetic Study of Co2FeAl nanoparticles, FeNi nanowires, and (Eu, In)-YAIG
利用者名(日本語) :嶋 睦宏1)
Username (English) :M. Shima1)
所属名(日本語) :1) 岐阜大学工学部
Affiliation (English) :1) Gifu University

1.概要(Summary)
ガーネット酸化物は、置換する元素により様々な性質を示すことが知られている。例えば、ユーロピウム置換イットリウム・ガリウム・ガーネット(Eu0.4Y2.6Ga5.0O12: Eu:YGG)は波長250 nmの励起光により波長590 nmの蛍光が観測されるのに対し、イットリウム・鉄・ガーネット(Y3Fe5O12: YIG)はフェリ磁性を示すことが知られている。よって、蛍光特性を有するEu:YGGと磁気特性を有するYIGを組み合わせることで、蛍光特性と磁気特性を併せ持つ機能性材料を作製できる可能性がある。この場合、界面原子のエネルギー状態が変化し、これが蛍光特性や磁気特性に影響を及ぼすことが予想される。そこで本研究ではYIG-Eu:YGG混合微粒子および二層薄膜を作製し、1173 ~ 1473 Kで熱処理することで界面構造を変化させ、界面構造の変化が蛍光特性および磁気特性に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。

2.実験(Experimental)
YIGおよびEu:YGGの前駆体をY(NO3)3・6H2O, Ga(NO3)3・6.42H2O, Fe(NO3)3・9H2O, Eu(NO3)3・6H2Oの各硝酸塩水溶液から共沈法により合成した。YIG-Eu:YGG混合微粒子については、まずYIG前駆体およびEu:YGG前駆体をそれぞれ1098 Kおよび1048 Kで1時間熱処理して結晶化させた。次に、結晶化させたYIG微粒子とEu:YGG微粒子をモル比で1:1となるように測り取り混合した。YIG-Eu:YGG二層薄膜については、まずYIG前駆体をSi基板にディップコーティングし1098 Kで1時間熱処理してYIG薄膜を作製した。次にEu:YGG前駆体をYIG薄膜にディップコーティングし1048 Kで1時間熱処理することで二層膜を作製した。作製したYIG-Eu:YGG混合微粒子および二層膜を1173 ~ 1473 Kで6時間熱処理した。これらの試料について、結晶構造をX線回折法(XRD)、磁気特性を超伝導量子干渉素子(SQUID)磁束計および振動試料型磁力計(VSM)、蛍光特性を蛍光分光光度計で測定した。

3.結果と考察(Results and Discussion)
3.1 YIG-Eu:YGG混合微粒子
XRD測定結果より、すべての熱処理温度においてガーネットに由来するピークが観測された。さらにリートベルト解析の結果、1173 ~ 1373 Kで熱処理した試料よりも、1473 Kで熱処理した試料のほうがFe3+およびGa3+の拡散量が増加していることがわかった。高温での熱処理により、YIG微粒子およびEu:YGG微粒子の界面で原子の相互拡散が促進されたことが考えられる。VSMによる磁化測定の結果、室温での飽和磁化は熱処理前には11.2 emu/gであるのに対し、熱処理温度を1173 Kから1473 Kまで増加させるにつれて9.9 emu/gから2.1 emu/gまで減少した。さらにSQUIDによる交流磁化測定結果より、5 ~ 200 Kの測定温度域において50 Kを最大ピークとする緩やかな磁化の変化が観測された。(図1参照)。このピークは交流磁場に対してスピンが応答しやすいことを表しており、スピンの応答のしやすさは、着目する原子位置における結晶場の影響や結晶粒界の影響を受けて変化する[1, 2]と考えられることから、1173 ~ 1373 Kで熱処理した試料と1473 Kで熱処理した試料では、Fe3+近傍における結晶場が異なることが考えられる。蛍光分光測定の結果、熱処理温度の増加により蛍光強度が減少することがわかった(図2参照)。Eu:YGG中にFe3+が拡散したことにより、Eu3+-O2-間の電荷移動遷移よりもFe3+-O2-間の電荷移動遷移の方が優先され、励起エネルギーが吸収されたことが蛍光強度の減少の原因と考えられる。

3.2 YIG-Eu:YGG二層薄膜
 SEM観察の結果、膜厚は1.5μmであった。またXRD測定の結果、1173 ~ 1373 Kで熱処理した試料はガーネットに由来するピークのみが得られたが、1473 Kで熱処理した試料のみSiO2に由来するピークが得られた。高温の熱処理により、基板のSiとガーネットの反応が促進されたことが原因と考えられる。混合微粒子と同様に、熱処理温度の増加とともに飽和磁化および蛍光強度は減少する傾向があることがわかった。一方、1473 Kで熱処理した試料の蛍光分光測定の結果、最大蛍光波長が590 nmから610 nmに変化した(図3参照)。Eu3+において波長590 nmの蛍光は磁気双極子遷移、波長610 nmの蛍光は電気双極子遷移によるものである[3]。これらの遷移確率は置換サイトの対称性により変化する[4]ため、1473 Kで熱処理した試料において、Eu3+の結晶場が変化したことが考えられる。
 1473 Kで熱処理することでYIG-Eu:YGG界面における原子の相互拡散が促進され、Fe3+およびEu3+の結晶場が変化し蛍光および磁性に影響を及ぼすことが示唆された。界面構造の影響をより明確にするために、さらに試料全体に対する界面の相対面積を増大させる必要がある。

4.その他・特記事項(Others)
参考文献
1]安岡弘志「物性研究」63 (1994) p.151.
[2]近角聰信「強磁性体の物理(下)」第7章20.動的磁化過程(裳華房 1984).
[3] Q. Liua, Y. Yuana, J. Li, J. Liua, C. Hu, M. Chen, L. Lina, H. Kou, Y. Shi, W. Liu, H. Chen, Y. Pan, and J. Guo : Ceram. Int. 40 (2014) p.8539.
[4] G.S.Ofelt : J. Chem. Phys. 37 (1962) p.511.
謝辞
本研究実施にあたり支援いただいた分子科学研究所 機器センター 藤原基靖氏、上田正氏、中川信代氏、伊木志成子氏、横山利彦氏に感謝します。本研究の一部は科研費基盤(C) No. 26420679により実施しました。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) Takatomo Imai and Mutsuhiro Shima, 応用物理学会, 2015/9/14.
(2) 岡 翔平、嶋 睦宏, 応用物理学会, 2015/9/14.
(3) 近藤慎吾、嶋 睦宏, 応用物理学会, 2015/9/14.
(4) 今井崇智, 嶋 睦宏, 材料フォーラム, 2014/11/20.
(5) 加藤聖也, 嶋 睦宏, 材料フォーラム, 2014/11/20.
(6) Takatomo Imai and Mutsuhiro Shima, ISPlasma2016, 2016/03/08.
(7) Kensuke Hayashi and Mutsuhiro Shima, ISPlasma2016, 2016/03/07.
(8) Mutsuhiro Shima, 4th ICCS, 2015/09/16.
(9) Mutsuhiro Shima, BaSIC 2016, 2016/03/03.
6.関連特許(Patent)
なし。

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