分子科学研究所
2013年度 成果事例
ディラック電子系分子性導体への静電キャリア注入を目的とした電界効果トランジスタの作製および物性評価
【研究目的】 高圧力下にある2次元層状構造の有機導体a-(BEDT-TTF)2I3がゼロギャップ電子系である。世界で最初にバルク(多層構造)で実現した2次元ゼロギャップ電気伝導体である。最近、わずかに負に帯電したPEN(Polyethylene Naphthalate)基板に試料を固定しただけで、接触帯電法で正孔を注入することに成功したのである。本研究では、バルクな(多層状)ディラック電子系の物理を展開することを目的に、PEN基板デバイスを作製して明瞭な量子磁気抵抗振動と量子ホール効果観測を行った。
【成 果】 基板としてPENを用いたところ、基板とa-(BEDT-TTF)2I3との仕事関数の違いによる電荷移動が起きることによって、自然に界面キャリアドープが起きることを明らかにし、明瞭な量子ホール効果とシュブニコフ・ドハース振動の観測に成功した。量子振動現象の指数解析から、 a-(BEDT-TTF)2I3は傾いたディラックコーンを有するマスレスディラック電子系であることを直接実証した。さらに、このデバイスのエネルギーダイアグラムを明らかにし、多層系における量子ホール状態の特徴を見出した。今回の成果は、分子性ゼロギャップ伝導体を用いた電子デバイス開発に向けた大きな第一歩である。今後この成果を基にして、この系へのキャリア注入制御を確立することで新たな分子性電子デバイスの展開が期待される。