分子科学研究所

2012年度 成果事例

分子性伝導体・有機トランジスタ作製評価支援
a東邦大学, b分子科学研究所,c大阪大学, d理化学研究所
田嶋尚也a,山内貴弘a,山口達也a,須田理行b,川椙義高c,山本浩史b,d,加藤礼三d, 西尾豊a,梶田晃示a

【研究目的】
グラフェンに代表されるゼロギャップ半導体は特異な電子状態を持つために、非常に高いモビリティやmasslessディラックフェルミオンとしての特徴的な量子輸送現象などを示し、次世代エレクトロニクス実現のための候補材料として注目されている。ディラック電子はグラフェンの他にトポロジカルに保護された界面などに存在することが明らかとなっているが、バルク物質としての特性についてはまだ詳細な検討がなされてない状況である。このような状況下、α-(BEDT-TTF)2I3は世界初のバルク・ディラック電子系として注目を集めており、本研究ではその量子輸送特性をデバイス化によって明らかにすることを目的として検討を行った。

【成  果】
α-(BEDT-TTF)2I3の薄膜単結晶をPEN基板に載せ、レーザー微細加工をすることによってホールデバイスを作製した(図1)。この単結晶と基板との界面では、仕事関数の違いによる静電的なキャリア蓄積が起きており、低温において輸送現象を測定することによりドープされたディラック電子の振る舞いを観測することに成功した。すなわち、磁場を掃引するとデバイスの抵抗値が図2のように量子干渉効果による振動(シュブニコフ・ドハース振動)を示すと同時にホール抵抗が周期的なプラトーを持つ(量子ホール効果)ことが明らかとなった(図3)。これらの現象に見られる特徴は、α-(BEDT-TTF)2I3中のディラックコーン(図1b)が傾いていても、ディラック電子としての性質は完全に保存されていることを明確に示している。

図1:α-(BEDT-TTF)2I3の結晶構造(a)、バンド構造(b)、およびデバイスの断面図(c)。 (d)は実際のデバイスの顕微鏡写真。
図2:デバイスの輸送特性において観測された量子振動現象。Rxxはデバイスの縦抵抗、Bは印加磁場。
図3:ホール抵抗において見られた量子ホール効果。 Rxyはデバイスの横抵抗。
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