物質・材料研究機構

2012年度 成果事例

合成高分子付加による蛋白質の自己組織化とナノ材料創製
名古屋工業大学大学院工学研究科
沖山 直矢、水野 稔久

【研究目的】
タンパク質を変性させることなく集合組織化できる手法の開発は、タンパク質ベースのナノ材料創製につながることが期待され興味深い。これに対し、タンパク質を集合化させる手法の一つとして、疎水性の合成高分子を付加する方法が提案されている。 我々は、pHの上昇に伴い疎水性に変化するポリ2-ビニルビリジン(p2VP)を緑色蛍光タンパク質(GFP)に付加し、マイクロ流体合成法と組み合わせることにより、蛋白質ナノチューブの作製が可能か検討を行った。

【成  果】
GFPへのp2VPの導入位置をC-末端側の1箇所に限定するため、C-末端側にリンカーとなる数残基のペプチド配列を介して新たなCys残基を導入し、蛋白質表面に元々持っているCys残基はSer残基に変異をかけた。このGFP変異体(GFP-Cys)は、大腸菌発現系にて発現を行い得た。p2VPはリビングアニオン重合により合成し、末端にマレイミド基を導入したものを用いた。これらの複合化は、pH4.5のバッファー水溶液中で行うことで、GFPの変性を抑えた複合化が可能であった。得られた複合体(GFP-p2VP、図1)の同定は、SDS-PAGEとSEC-MALLSにより行い、数平均分子量 33000、分散度 1.04と求められ、理論値との一致が見られた。
マイクロシリンジを用いた蛋白質ナノチューブの作製を試みた(図2)。pH4.5のバッファー水溶液中に溶解しているGFP-p2VPを、pH7のバッファー水溶液中にインジェクトし、溶液中の動的光散乱(DLS)測定を行ったところ、ナノチューブ化されなかった10 nm以下の分画の他に、1000 nm程度の粒径を持つ大きな会合体の形成が確認された。そこで、この大きな粒径をもつフラクションをサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により単離し、電子顕微鏡(TEM、SEM)による測定を行ったところ、直径200 nm、長さ1〜10 µm程度のナノチューブが形成されていることが明らかとなった(図3)。得られたナノチューブのサイズはは光学顕微鏡の光学分解能の範囲内にあるため、位相差顕微鏡、蛍光顕微鏡からもファイバー状のチューブの形態は確認できた(図4)。また、チューブを作製する溶液中に蛍光色素を添加しておくことでチューブ内部への内包がみられ、これをSECにより単離しても内部の蛍光色素は失われなかったため、チューブの両末端は閉じ、カプセル様の性質を保持していることも確認された。
今回検討を行った方法にはある程度一般性があり、様々な天然蛋白質に同様な手法を適応することで、今後様々な機能を持った蛋白質ナノチューブの作製が期待される。

図1 GFP-p2VPの構造
図2 マイクロ流体合成法による蛋白質ナノチューブの作製
図3 GFPナノチューブのTEM画像(左)と SEM画像(右)
図4 GFPナノチューブの位相差顕微鏡画像(左)と蛍光顕微鏡画像(右)

Okiyama, N., et al. 2013, Chemistry letters, in publication.

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