分子科学研究所

2012年度 成果事例

超高磁場下超高速試料回転H固体NMRによる逆平行・平行βシート構造を有するアラニントリペプチドの精密H位置決定
a東京農工大学,b分子科学研究所
矢澤宏次a, 朝倉哲郎a, 西村勝之b

【研究目的】
H核は分子の外側に位置するため、本質的に分子間構造に敏感である。しかし、有機固体試料のH-NMRでは、主にH同種核間磁気双極子相互作用に起因する広幅なスペクトルを与えるため、従来、殆ど構造解析に用いられてこなかった。
本研究では、920MHz超高磁場NMRに、超高速回転マジックアングルスピニング(MAS)プローブを組み合わせることにより、1Hスペクトルを先鋭化し、正確な1H化学シフト値を決定・分子間構造を解析する手法を開発、それをアラニントリペプチドの精密構造解析に適用した。

【成  果】
逆平行・平行βシート構造を持つアラニントリペプチドをモデル分子として、 920MHz超高磁場NMRにおいて、70kHzの超高速試料回転下で1H固体NMRスペクトルを測定した。超高速MASによって1H同種核間磁気双極子相互作用に代表される異方的相互作用を効率的に平均化、図1に示すように、これまでに無い先鋭な1H信号を得た。次に、1H固体NMR DQ-MAS法を適用することにより、同試料の全ての1H信号の帰属に成功した(図2)。さらに、図3にまとめたように、アミド基の1H化学シフト値から分子間水素結合距離を決定できる関係図を導出した。最終的に、実験的に得られた1H化学シフト値とGIPAW1H化学シフト値の評価を合わせて、同分子中の正確な水素結合構造、および1H位置を決定することに成功した。

Fig.1 (a)逆平行、(b)平行β-シート構造を持つアラニントリペプチドの超高磁場下での超高速MASによる1H固体NMR MASスペクトルの分解能向上の様子。
Fig.2 超高速MAS下でのDQ-MAS法による1H固体NMRピークの帰属。
Fig.3 平行および逆平行βシート構造を持つアラニントリペプチド構造から実験的に決定されたアミド1H化学シフト値と分子間水素結合距離 との関係図。
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