利用報告書

有機半導体・無機半導体界面のエネルギー準位接合波数分解測定
樫本祐生1, Matthias Meissner2, 上羽貴大2, 解良 聡2, 吉田弘幸
1) 千葉大学大学院、2) 分子科学研究所

課題番号 :S-17-MS-0006
利用形態 :共同研究
利用課題名(日本語) :有機半導体・無機半導体界面のエネルギー準位接合波数分解測定
Program Title (English) :Momentum-resolved energy-level alignment at organic-inorganic semiconductor interfaces
利用者名(日本語) :樫本祐生1, Matthias Meissner2, 上羽貴大2, 解良 聡2, 吉田弘幸1
Username (English) : Y. Kashimoto1, Matthias Meissner2, Takahiro Ueba2, Satoshi Kera2, H. Yoshida1,
所属名(日本語) :1) 千葉大学大学院、2) 分子科学研究所
Affiliation (English) :1) Chiba University, 2) Institute for Molecular Research

1.概要(Summary)
有機固体は、多くの場合、電気絶縁性を示す。その中で半導体特性を示す有機半導体の電気伝導のメカニズムは、基礎研究としても興味深く有機半導体応用上も重要な研究課題である。有機固体は、分散力や静電相互作用などの弱い分子間相互作用による有機分子の集合体である。この中を、電荷は分子間の分子軌道の重なりを通じて伝導する。このような分子間軌道相互作用は、バンド分散[1]やエネルギー準位の分裂[2]として観測される。
最近、我々はシャトルコック型フタロシアニンのひとつ、スズフタロシアニン(SnPc)について、グラファイト上に真空蒸着法により成長した薄膜の最高占有軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)をそれぞれ光電子分光法(UPS)と低エネルギー逆光電子分光法(LEIPS)を用いて観測した[3]。その結果、1分子層(ML)から5 MLと膜厚を増やすと、スペクトルの形状が特徴的に変化することを見出した。これをヒュッケル法に基づくモデルと比較から、分子間軌道相互作用による分裂と結論した。これを裏付けるために、低速電子線回折(LEED)や光吸収(DRS)により薄膜構造を精査し、鉛フタロシアニン(PbPc)の単斜晶[4]のように、SnPc分子が双極子の向きをそろえた1次元的なカラム構造をもち、層状成長することを見出した[3]。
しかし、このグラファイト上のSnPc薄膜には結晶多形が存在し、室温で蒸着すると1次元カラム構造をとるが、加熱した基板上に蒸着したり蒸着後に加熱すると分子の双極子を打ち消すように組み合った構造をとる。これらの2つの相の構造が、PbPcの単斜晶系、三斜晶系とよく似ていることから、ここでは1次元カラム構造を単斜晶系、上下が組み合った構造を三斜晶系と呼ぶことにする。高温で単斜晶系から三斜晶系へと転移することから、三斜晶系が安定相、単斜晶系は準安定相と考えられる。
これまでの研究では、UPS・LEIPSなどの電子構造解析を千葉大学、LEED・DRSなど薄膜構造解析をドイツJena大学で行ってきたため、双方の測定結果を直接結び付けることができなった。室温でも単斜晶系から三斜晶系に相転移することがあり[5]、製膜条件だけではどちらの結晶多形であるか判断できない。そこで、本研究では、同じ試料についてUPSとLEEDを測定することにより、電子状態と薄膜構造との相関を明らかにした。

2.実験(Experimental)
単結晶グラファイト(SCG)上にSnPcを室温で真空蒸着し、4.1 MLの多層膜を作製した。この試料について、UPSは励起光源にHeI共鳴線(エネルギー21.22 eV)、電子エネルギー分析器にDA30(Scienta Omicron GmbH)を用い、LEEDはBDL800IR-MCP1-LaB6-LMX(OCI Vacuum Micronengeneering)により測定した。まず、室温で測定後、加熱による構造変化を調べるため、温度を上げながら測定した。

3.結果と考察(Results and Discussion)
室温で蒸着したSnPc薄膜試料を昇温しながら測定したLEED像を図2に示す。室温での蒸着直後のLEED像には単斜晶系を示す回折スポットが観測された。この試料を350 Kに加熱すると単斜晶系のスポットがより鮮明になった。この試料をUPS測定(後述)後に再びLEED測定を行うと、単斜晶系に加えて三斜晶系を示すスポット、さらにどちらとも合致しないスポットが観測された。加熱と時間経過により、薄膜の一部が単斜晶系から三斜晶系と別な相へと相転移したと考えられる。さらに456 Kまで加熱し、室温に戻してからLEED測定を行うと、単斜晶系を示すスポットは消失し、三斜晶系を示すスポットと1 MLのスポットの両方が観測された。これは高温での加熱により、単斜晶系から三斜晶系に完全に相転移するとともに、基板と直接接触する界面第1層以外が部分的に蒸発したものと考えられる。
蒸着後と350 Kで加熱後に測定したUPSスペクトルを図2に示す。蒸着直後の試料では、LEEDでは単斜晶系を示すスポットが観測され、UPSでは以前の結果と類似のスペクトルが得られた。350 Kに加熱すると、1.5 eVの位置に新たなピークが現れ、低束縛エネルギー側に長く裾を引くようになった。
このように、薄膜構造とUPSのスペクトルには、明らかな相関があることがわかった。純粋な三斜晶系のUPSスペクトルは得られなかったが、低束縛エネルギー側に長く裾を引くなどの特徴があれば、三斜晶系が混合していると考えられる。一方、従来、千葉大で室温で蒸着した試料は、確かにUPSスペクトルから単斜晶系と考えられる。

[1] N. Ueno, S. Kera, Prog. Surf. Sci. 83, 490 (2008).
[2] S. Kera, H. Fukagawa, T. Kataoka, S. Hosoumi, H. Yamane, N. Ueno, Phys. Rev. B 75, 121305 (2007).
[3] Y. Kashimoto, K. Yonezawa, M. Meissner, M. Gruenewald, T. Ueba, S. Kera, R. Forker, T. Fritz, H. Yoshida (査読中)。
[4] K. Ukei, Acta Cryst. B 29, 2290 (1973).
[5] Y. Kashimoto, H. Ichikawa, H. Yoshida, UVSOR Activity Report (2017).

4.その他・特記事項(Others)
なし

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
論文:Yuki Kashimoto, Keiichirou Yonezawa, Matthias Meissner, Marco Gruenewald, Takahiro Ueba, Satoshi Kera, Roman Forker, Torsten Fritz, Hiroyuki Yoshida, “The evolution of intermolecular energy bands of occupied and unoccupied molecular states in organic thin films” (査読中)。
国際学会(ポスター):Y. Kashimoto, H. Yoshida, “The evolution of intermolecular energy bands of occupied and unoccupied molecular orbitals in organic thin films”,9th International Conference on Molecular Electronics and Bioelectronics(M&BE9), Kanazawa.

6.関連特許(Patent)
なし

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